二人暮らしをしている南涼
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珍しく、休日に早く起きた。
今日はダージリンを飲みたい気分だな、と思った私は、キッチンに向かった。
目線より上にある棚に積まれた、色鮮やかな茶葉の詰まった缶から一つ取り出す。
取り出しにくいダージリンが一回で取り出せたので、私は微笑む。
神は私が紅茶を飲むことに賛成なようだ。
そう思った後に昔のチームメイトが浮かんで、さらに笑みを深めた。
美しい彼は今は何をしているだろう。日本に来ることを選ばなかった彼は、今も韓国にいる。
たまに手紙を書いたり、あちらからキムチが送られて来たり、と交流は絶えてはいないが、やはり四六時中いた昔よりは疎遠である。
また、手紙を書こう。キャプテンにも、美しい彼にも。
次はキムチ以外を送って欲しいな。晴矢は辛い物が好物だが、私は辛い物は苦手なんだ。
キッチンにことんと缶を置き、やかんに水を入れて、火に掛ける。
沸騰を待つ間に、ポットとカップ、ミルクピッチャーを準備した。
ポットはガラス製で、中身が見える物だ。茶葉が舞う様が見えるので、見ていて楽しい。
カップは残念ながら、ティーカップではない。安かった青のマグカップだ。
二人暮らしの私達の生活費は、吉良財閥が出している。マグカップは少しでも負担が減るよう、高い買い物を避けた結果だ。
紅茶とは釣り合っていないが、私のお気に入りのマグカップである。
これの色違いの赤のマグカップは晴矢が使っている。単に二つセットが安かったので購入したのだが、二人並んで使っている時にふと、夫婦のようだな、と思ってから私のお気に入りなのだ。
晴矢には絶対言えないけれど。
ガタガタと音を出して沸騰を伝えるやかんを掴んで、ポットとカップとミルクピッチャーに湯を注ぐ。温めておくことが、美味しい紅茶に繋がるのだ。
先程置いた茶葉を一杯分量る。温まったポットから湯を捨てて、茶葉を入れた。
やかんの湯を注ぐと、少しずつ色が変わり、茶葉が舞う。ガラス製ポットならではの楽しさだ。
大きめの茶葉を使ったので、4〜5分待つことになる。
ミルクピッチャーの湯も捨てて、小さな冷蔵庫から牛乳を取り出して、注いだ。
ダージリンの香りにふんわりとした笑みがこぼれてしまって、私らしくない!と無表情を取り繕うが、また笑ってしまう。
諦めてそのままにして、やかんの火を止めると、のっそりと晴矢が起きてきた。
まだ寝呆けているのか、あまり目が開いていない。
「おはよう、晴矢。」
「あ?…ふうすけ?」
少し呂律が回っていなかった。
また笑ってしまい、今日は笑い続けていることに気が付いてしまった。凍てつく闇が融解されているのだろうか。
幸せだからもういいかな、と思った自分がそこにいた。
「ふふ、そうだよ。今日は早く起きれたんだ。」
「おー珍しいな…。あぁ、紅茶飲んでんのか。なら俺コーヒー飲むわ。」
「なら丁度湯があるよ。」
「おー。」
紅茶にこだわりがある私と違って、晴矢は特にコーヒーにこだわりはない。
市販のインスタントを出すと、赤のマグカップに入れて、ざぱぁと湯を注いだ。
晴矢がダイニングの椅子に座った。ずずと音を出して啜っている。
何でブラックで飲めるんだ?
晴矢が言うには、砂糖やら牛乳やら入ってるのはコーヒーじゃないらしい。私から言わせて貰えば、コーヒーなんてどれだけ砂糖やミルクを加えても苦くてたまらないのだが。
よい頃合いになったので、カップの湯を捨て、ポットからダージリンを淹れる。ミルクピッチャーからミルクも淹れ、角砂糖も落として、スプーンでゆっくりかき混ぜる。自分好みの紅茶の完成だ。
達成感を感じながら、晴矢の向かい側に座った。
ゆっくりと味わいながらダージリンを飲む。
安売りしていた物だが、なかなかの味だ。またあの店を使うとしよう。
あぁ、そういえばオレンジがあったんだ。次に淹れる時はオレンジを輪切りにして入れてみようか。
薄めのストレートに入れるらしいから、アールグレイでやろう。
つらつらと考えていると、晴矢はブラックコーヒーのおかげで覚醒したようだ。
「風介、朝ご飯何がいいんだ?」
がたりと椅子から立ち上がって晴矢がキッチンに戻る。
「んー。目玉焼きとソーセージとパン?」
「何で疑問符付き…。簡単なのばっかだなー。すぐ出来るから待ってろ。あ、サラダ追加な。」
「え、野菜やだ。」
「バランス考えろお子ちゃま味覚!」
「くっ!」
私が呻く振りをすると晴矢は笑った。憎たらしいので睨んでやる。
ずずと啜ったダージリンは少し冷めていた。
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