ファイアードラゴン時代の二人
とある絵茶で頂いたネタです。
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韓国代表「ファイアードラゴン」
その練習場では、集められた選手が自身を高め、勝利へと繋がるよう努力を惜しまず練習していた。
練習を終え、疲労が見える選手達が練習場を出るのを風介はベンチに座りながら眺める。
いつもならすぐに出てしまうが、今日はそうはいかない。
自分達が使う練習場を片付けるのは、自分達全員であるべきだ。
使った者がちゃんと整備することに意義がある。
だが毎回全員で片付けては効率が悪く、かと言って一人に押し付けるのは重労働だ。
そこでファイアードラゴンでは二人組みで片づけ当番を作り、一週間交代でその当番を行うようにしている。
今週は風介と晴矢の当番だ。
晴矢は全員が居なくなるまでリフティングを続けていたが、スタミナの少ない風介はさっさと座り込んでいた。
全員が出たのを見計らって、散らばったボールを集めにかかる。
早く帰りたいと思っていた風介は、無理をしてボールを四つ一度に持とうとするが、うまくいかず、二つ落としてしまった。
球体のボールはころころと転がってまた散らばる。
くるりと振り返ると、晴矢は背を向けてむこう側のボールを集めていた。失態は見られなかったらしい。安堵の溜息を吐いて、落ちなかった二つを鉄格子のかごに入れた。
効率は悪くなるが、次からは確実に一つずつ持つようにしよう、と風介は決めた。
晴矢はさっさと周辺にあったボールをかごに入れ終えてしまった。風介より体格の良い晴矢は難なくボールを大量に持てたからだった。
後ろを見ると、一つ一つ丁寧にかごまで運んでいる風介が見えた。
ちょこまかと小動物のように動く風介に少し心臓が跳ねたが、いつものことだ。
軽く深呼吸をして心臓を整えて、平静を装う。
何であんなにかわいいんだ。口を開けば嫌味ばかりなのに!
と心の中では、半ば自棄になっていたが。
一つ一つ運ぶ風介はやはり効率が悪く、長くかかりそうだ。
ずっと眺めているのも悪くはないが、疲れるのは風介だ。
しょうがないな、と呟いて、風介周辺のボールも拾う。
実際は、世話のかかる風介を世話するのは自分だけの役割だと思っているから、しょうがないな、だなんて思ったことはないのだが。
このまま、生活の全てが俺がいなければ出来ないまで、依存すればいいのに。風介のプライドが許さないんだろうけど、と思いながらボールを四つ、かごに入れた。
自分の持ち場を終わらせることに集中していた風介は、いつの間にか散らばったボールがなくなっていることに驚いた。想像したよりも明らかに少ない往復で済んでしまった。
首をかしげていると、
「手伝ったぞー。」
と晴矢が笑いながら言う。
先程晴矢が居た場所を見れば、確かにボールは片付いている。
風介は、少し、晴矢の方が有能だとでも言われているような気がして、もの悲しくなった。
すると晴矢はやはり笑ったままで、
「俺って、紳士じゃね?」
と言った。意味が分からず、じっと晴矢を睨む。
「は?」
「いやーだってよ、早く終わったからって風介手伝ったんだぜ、紳士だろ、紳士!」
ぐっ、と喉が詰まる。反論する余地はない。
「そう…。」
「だから、明日は風介が俺を手伝え!」
それでおあいこだろ?と晴矢は満面の笑みで続けた。
暗に、気にするな、と伝えているのだ。風介はそれに気付き、微笑んだが、すぐにその表情を消して、
「どこが、紳士なんだい?紳士は見返りを求めないものだろう。」
と、フッと鼻で笑った。
いつもの調子に戻った風介に安堵した晴矢は、ドリブル練習で使うカラーコーンの方へ歩きだす。
何をし出すのか、と風介が見やると、晴矢はカラーコーンを一つ掴んで、
「シルクハットー!」
頭上にかざした。大きな赤いとんがり帽子に見えなくはないが、シルクハットには到底見えない。
「何やってるのさ。」
と風介が呆れた顔で問い掛けると、
「こうすれば紳士に見えんじゃね?」
ニヤニヤと笑いながら晴矢が叫ぶ。
「いや、全く見えないよ。」
と返すと、晴矢は何だよーと言いながら、カラーコーンから手を離した。
大きなカラーコーンだったので、晴矢の顔はすっぽり隠れてしまった。顔がカラーコーンに見えるので、中々恐ろしく見える。
その姿のまま、晴矢が風介に向かってきた。
見た目は恐ろしいが、中は晴矢なので、風介が恐怖を感じることはなかった。
動かずに晴矢の様子を見ていると、フラフラとしながら歩いている。カラーコーンの中からは外が見えないのだろう。
小さい子供を見ているようで可笑しくなった風介は、幼稚園生に話し掛けるように言う。
「晴矢ーここまでおいでー!」
「おー今行くー!」
くぐもった声で晴矢が応じた。
すると本当に風介に向かって一直線に歩きだす。
まるで見えてるような動きに、風介は驚いた。
少し難しいかと思ったが…何で分かるんだ?
と思案している間に晴矢はあっという間に風介の前にたどり着く。
晴矢は腕を伸ばして、風介を抱き締めた。
「捕まえた!」
「…良く分かったね?見えないでしょ?」
風介は聞きながら、周りから見たら、カラーコーン頭の怪人に抱き締められている図だな、と思って、笑った。
「見えないけど、風介の声聞けばどこに居るか分かる。」
「…すごいね。」
「愛があるからな!」
突然の告白に照れくさくなった風介は晴矢の肩に顔を埋めて、
「バカめ。」
と囁いた。すると晴矢は自身の体重を風介に掛けはじめた。
「風介、お前やっぱ、可愛いな。」
「可愛くない!…て、晴矢…体重掛けるな!重い!」
しかし無言で体重を掛けられ続けて、ついに風介は倒れてしまった。
背中がグランドに着いた風介は、後から来るだろう晴矢の体重に耐えようと目をつぶるが、いつまでたっても重みは感じられない。
そっと目を開けると、晴矢の顔が目の前に広がっていた。
晴矢は外側に手を付いて、風介に体重が掛からないように上体を起こしていた。
カラーコーンは、倒れている間に外れた。
すっと目を細めて、晴矢は風介に、
「キスしてぇな。」
と言った。
「…私はしたくないよ。」
と風介は反論するが、晴矢は鼻で笑ってあしらう。
「俺がしてぇから、する。」
「…紳士は合意がなければ行動しないんじゃないのかい?」
「どーせ俺はエセ紳士だからな。」
と晴矢は笑って、風介の唇を塞いだ。
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