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お日さま園時代

二人の初対面を捏造

基本設定は「凍てつく氷と雪」










***
瞳子が遠くに出掛けた。お日さま園に長くいる俺は、それが新しい仲間が増える前触れだと知っていた。前に出掛けて行った時は凍地兄妹が増えたし、俺の時もわざわざ沖縄に迎えに来たから。



瞳子が夜遅くに帰って来た。

夜遅くに帰って来た時は、皆に紹介する前に、新しい奴は瞳子と寝るのが通例だった。

紹介される前に新しい奴に会いに行くのは、暗黙の了解でご法度だ。

けど、妙に胸が騒いだ俺は、新しい奴が気になって、一人でこっそり見に行った。


窓の外から見た瞳子の部屋には、

綺麗な奴がいた。

キラキラ光る銀髪、クリクリした翡翠の眼、長い睫毛。この世の者とは思えなかった。割と本気で、絵本から出て来たのかと思った。


バレないように、ひっそりと帰って来たけど、布団に潜り込んだ後も胸がドキドキと鳴っていて、苦しかった。今なら分かる。あれは、


一目惚れだった。


あの時ほど、お日さま園の澄んだガラスに感謝した日はない。

しかし、容姿が好みだったのかと問われると、それは違うんだ。多分全く同じ容姿の奴がいてもそいつには胸は騒がないだろう。あいつが持つ雰囲気にきっと俺は惚れてしまったのだ。

明日紹介されるだろう、新しい仲間に胸を弾ませながら朝日が昇るのを待った。





朝日は昇ったけど、瞳子は俺達に誰も紹介しなかった。会えるのを楽しみにして、俺なんか眠れなかったのに!なんでだ!おかしい!と叫びそうになったが、そうすると見に行ったことがバレてしまうから、唇を噛んで耐えた。


もしかしたら、風邪を引いてしまって紹介が遅れたのか、とも思った。けど、何日しても紹介はなかった。

途中から、あれは夢だったんだ、とすら思い始めた。だってあいつは夢のように綺麗だったし、瞳子が帰って来たのは俺達がいつもなら寝静まるような時間だった。



納得はあまり出来なかったが、夢かもしれないことをずっと考えていても仕方ない。いつも通りの生活に戻った。頭ではずっとあいつのことを考えてたけど。



お日さま園で出会った茂人は病弱で、大抵は二階にいる。お日さま園の二階は階段前に柵がしてあって普通は上がれない。上がれるのは病気になった時とか、特別な時だけだ。

でも俺は、一人で寂しがってる茂人の話し相手になることが多かったから、勝手に二階に上がることを許されてた。

基本的には茂人と喋る為に使ってた特権だけど、たまに強く蹴り過ぎて二階のベランダにボールを飛ばした時にも、瞳子に怒られる前にボールを回収するために使ってた。



その時は後者の理由で二階に上がった。茂人のいる部屋のベランダとは違うベランダにボールは飛んで行ったから、二階にある部屋の扉を開けて回った。





バンッと開けた扉の向こうに、あいつがいた。

瞳子が使っているような大きなベッドに一人、上半身を起こして、ベランダを見つめていた。

何でここにいるんだとか、ガラス越しで見るよりさらに綺麗だとか、色んなことが頭の中で駆け巡った。心臓は今まで聞いたことないような爆音で脈を打っていた。


「ボール、知らねぇ?」


大分混乱していた俺だが、どうにか無難な話題を選択して話し掛けた。くるりと顔を動かして、あいつが俺を見た。


「ぼーる…?…!…ベランダに…ある…と思う…」


ぽつぽつと言った言葉は聞き取りにくかったけど、ちゃんと意志疎通は出来たし、初めて声聞いたし!嬉しくなりながら、部屋に入ってベランダに近づく。ガラスの鍵は少し高い位置についているが、背伸びすれば届いた。

ガチャン、ガラガラと鍵とガラス戸を開けた。ベランダに転がるボールを手に取る。ここに飛んでくれてありがとう、とボールに伝えたい。今度はガラガラ、ガチャンと閉めて、あいつの方を向いた。

あいつは不思議そうに俺を凝視していた。バクバクと鳴る心臓に慌てるが、これは夢じゃなかったこいつと喋れるチャンスだ!会話しようと話し掛けた。


「お前、名前なんてぇの?」


「…涼野…風…介…」


「風介?ふーん!俺は南雲晴矢!よろしくな、風介!」


ベッドに走り寄って右手を差し出す。きょとんとして首を傾げてた風介だが、右手の意味はわかったらしい。右手を出して、握手してくれた。爪が青いのは何でだろう。


「よろし…く…」


「ああ!」


満面の笑みで返したけど、風介の表情はぴくりとも動かなかった。でも、冷たい反応と言うよりは、どうしていいのか分からない、って感じだ。


あんまり人と交流したことがないのかも知れない。ここにはそういう奴がいっぱいいる。そういう奴には話題を振ってやるのがそいつが一番話しやすい話し方だということを俺は知っていた。


「風介は何でここにいるんだ?何か病気か?」


「違う…人と話すの…苦手で…。まだ…あんなに大勢いたら…話せなくて…一人相手でも…難しいのに…」


「そうか…」


風介は少ししょんぼりとしてしまった。


「あまりに…一人でいるのは…迷惑だろうから…」


どうにかしたいんだが、と風介は零した。考えが大人びているなぁ、とぼんやり思った。俺は瞳子の負担になるようなことばかりしている。けどそれを悪いな、とはあんまり思ってなかった。

でも風介は悩んでいるようだし、力になりたいって思った。


「じゃあ、俺毎日ここに来る!俺と話そうぜ!」


「…何で…?」


「人と話す練習すんの!」


「ああ…でも、いいのかい…?迷惑でしょ…?」


風介は人を気遣い過ぎる奴らしい。ぶんぶんと頭を横に振って否定する。


「迷惑じゃねぇよ!俺、風介気に入ったんだ!力になる!」


「…不思議な人だね、君」


「君じゃねぇ、俺は晴矢ってんだ!」


ちょっと強く叫んでしまった。表情はそんなに変わんなかったけど、びっくりした風の風介に申し訳なくなった。でも謝る前に風介が、


「…晴矢…ありがとう…」


と礼を言うものだから、心臓が破裂しそうになって、謝ることを忘れてしまった。


その後ちょっと他愛ない話をした後、あまり長居をすると瞳子にバレてしまうから、泣く泣く俺は階段を降りた。けど風介が「…待ってるよ」って言ったから、俺は既に次に会うのが楽しみで仕方なかった。









俺の初恋の相手は、それは綺麗な、男子だった。








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