「愛してます。」




知ってるよ。そんなこと。



「月が綺麗ですね」




あぁ。


俺はお前が思っている以上にお前を愛してるんだょ――…





I love you







「…‥先輩。寝ましたか?」


事情の後、布団にうずくまっていたらいきなりテンゾウが話しかけてきた。



「寝ようとしてたんだよ。テンゾウの馬鹿。」



そう悪態をついてまだ布団にうずくまっている俺にテンゾウは頬笑み、布団から出ている俺の髪を弄り始めた。



「すいません。何かぱっちり目が覚めてしまって。


何ででしょう先輩?」



そう言いながら布団に忍びこんで俺の後ろから抱きついてくるテンゾウ。



「…‥知らないよ。そんなこと。テンゾウが眠くなくても俺が眠いの。

お前の所為で身体中しんだいんだから、しかも明日朝イチから任務だし。」



「僕はまだまだ元気ですよ。いろんな意味でね。」



「……‥最低だな。俺もぅやんないよ‥…。」



「えぇ〜…。まぁ僕も、もぅ1ラウンドするなんてことはしませんよ。僕も明日任務なんで。」



「へぇ〜…‥。」



布団にくるまっているのに、そのうえ、背中からテンゾウが覆い被さってるとなると、暑苦しくてしかたがない。

ただでさえ、テンゾウは体温が高いのに。



「テンゾウ。暑いからどけ。」


「先輩、冷たくて気持ちいからいやです。」



まったくこいつは…‥。

前は俺の言うこと何でも聞いて可愛いかったのに。

今は反抗してばっかりだ。


「あっ…‥。先輩、窓見てください。」



ふぅ…‥とため息をつき、テンゾウの声に身体をよじって窓を見ると



「……‥月じゃん。」



「はい。今日もまた一段と綺麗ですね。僕、月大好きなんですょ。特に三日月がお気に入りです。」




窓から2人に向けて降り注ぐ月光。その先には妖しく、そして美しい銀色の月が輝いていた。




「…‥知ってるよ。お前が月好きなこと。」



「えっ…‥。何でですか?」


後ろから不思議そうな、でも何だか少し嬉しそうな声が背中に伝わる。



「だってお前。いつも夜、俺の所にくるたびに、『月が綺麗ですね。』って言うし、最悪、最中の時まで『今日、曇ってるから月見えないですね。』なんて動き止めてまで言うもんだから、嫌でもお前の月好きを知ったわけよ。」


呆れ顔で話すと「あぁ〜なるほど」なんて間抜けな返事が帰ってきた。



「そんなにいいかね…‥。月何ていつでも見えるじゃないの。」



「月に嫉妬ですか先輩?」



「ばーか。」





聞こえるのは
風に揺れ動く木々の音と
テンゾウと俺の心臓の音だけ。


事情が終わった後は二人でこうして下らない話しをしたり、のんびりしたり、抱き合ったまま眠ったり。

この時間が、俺はけっこー好きなんだよね。





「…‥月って先輩に似てません?
髪の色も、月に似てるし、妖しく、でもどことなく切なげで、美しくて惹かれる。だから僕、月が好きなんですよ。
長期任務の時とか、先輩に会えない時とかに月を見ると、凄く安心して、そして早く先輩に会いたいって思ってしまうんです。」



そのお陰で早く任務完了して帰ってこれるんですょと、自信満々の声が聞こえたが、あまり耳に入って来なかった。



想われている。愛されている。そう思うとなんだか照れくさくて、でも凄く嬉しくなって、がらにもなく自分からテンゾウに抱きついてしまった。あーあ。俺、今絶対顔赤いわ〜。

布団の中がまた一段と暑くなる気がした。




「珍しいですね。先輩から抱きついてくるなんて。」


「いいでしょ別に…‥。嫌なら離れるけど?」



「まさか。」




そういって嬉しそうに頬笑んだテンゾウは、苦しいくらいに俺を抱きしめてきた。


二人の心臓がさっきよりも早く音を告げる。





ねぇ、テンゾウ。
俺はね。お前が思っている以上にお前が好きなんだよ?


そして…‥多分…‥

俺が思っている以上に
お前は俺のこと好きなんだ。





「俺といる時は、月なんか見てないで俺だけを見てよね。」



テンゾウを見つめ、ちゃかしたように言ってやると、いきなり真剣な表情になってお前は





「ずっと、いつまでも僕は先輩しか見てないですよ。





先輩、愛してます。」









あぁ…‥


俺もお前を愛してる。






「ほんとに、綺麗な月だねぇ…‥」










I love you = 月が綺麗ですね









後書き