「さぁハニー。あ〜んしてくだせぇ。」



「………………‥。」




落ち着け、落ち着け俺。
大丈夫。大丈夫。
アイツは味方だ、敵じゃない。



「あ…‥ああありがとう。だっ…だぁーり‥ん?」



「いえいえ。気にしねぇでくだせぇハニー。俺とハニーの仲じゃねーですかぃ。」



餅つけ…あっ間違えた、落ち着けっ落ち着け俺。
恐くない。ねっ?恐くない。
目の前にいるのは俺のダーリンだ。大丈夫、我慢だ…我慢だ俺…‥



「じゃあ次は、ハニーが俺にあ〜んしてくだせぇ。」




我慢……‥我慢……………‥








我慢?はっ何それ美味しいの?







「だぁああぁあぁァ―!!!!」



俺は机をバンッと叩きながら立ち上がった。
机の上に置いてあったパフェが揺れて転けてしまいそうになっているのを目の前の馬鹿が受け止める。



「何やってんですかぃハニー。他のお客様に迷惑じゃありやせんかぃ。」



「うるせぇよ、だぁーりん!!!そりゃあ俺だって男だ。一度した約束は破らねぇ……でもな、何でこんな公共施設で羞恥プレイされなくちゃいけねーんだよッッ!!!」



ここは最近できた喫茶店でパフェが美味しいからとこの馬鹿に誘われて入ったはいいがお目当てのパフェがきたとたんにコイツは「この喫茶店はお客がカップル限定なんであ〜んしあいっこして食べないといけやせん」何て頼んだ後に言うもんだから嫌でも羞恥プレイされなくちゃいけないはめに。


パフェはめちゃくちゃうめぇのに周囲の視線が痛すぎる。
ただでさえこっちはダーリン何て言うオプションまで付いてきて精神崩壊寸前なんだよッ!!!!




「とりあえず出るぞ馬鹿ダーリンッ!!!」



そういって俺は残りのパフェを口の中にかきこんで店を後にした。


馬鹿はお勘定をして俺の後ろをついてきた。




どこに行くでもなく俺の足は江戸の外れにある丘の方に向かっていた。
後ろで馬鹿が俺に何か言っていたがそんなの全部スルーだ。


行く途中に鼻先に冷たい感触がしたがそんなのお構い無しに俺は丘の上まで急いだ。




****





丘を登っている時に気づいたのだがさっきまで感じていた冷たさはどうやら雨のようだった。

どしゃ降りではないが、かなりの量が降ってきた。俺は一目散に丘の上の大木の根元に走っていった。



「うわぁ〜…‥地味に濡れた。て言うか馬鹿ダーリンはどこ行ったよ。」



ハニーを放置する何てダーリン失格だな、あの馬鹿は。


そんな事を思っていたら段々寒くなってきた。
少しとはいえど雨に濡れたまま外にいるのだ。



「……‥あぁ〜何か虚しいぞコノヤロー…‥」



ぼそっと呟いた言葉はそっと雨の音の中に溶けて消えた。



てかホントあの馬鹿どこ行ったんだよ。
ついさっきまでは俺の後ろにいただろあいつ。

いや、別に寂しいとか思ってないよ銀さん。
ただアイツがハニーを放置するのが意味分かんないだけで………‥







そもそもハニーってのが意味分かんねぇって話しだが。


てか何ダーリンて?
何でハニー?
可笑しいよね、可笑しいよねこれ?



オッサンにダーリン何て呼ばせる何て末期だろ、人として失格だろ。



ホントあの馬鹿が考えることは分け分かんねぇ。



そんな馬鹿に惚れた俺も人間失格で分け分かんねぇけどな。





ふっ…‥と零れた笑みにやっぱり俺はダーリンに相当お熱なんだなと我ながら思った。さっきまでの怒りは静まり、今はただ、ダーリンに早く会いたいなぁ何て思っていた。








「ハニー、大丈夫ですかぃ?」



目の前には傘を差した恋人の姿。
あいた左手にはビニール袋を持っており、中からはタオルとお菓子と言う変な組み合わせが出てきた。



「大丈夫じゃねぇ〜よダーリン。ハニー放置ってどういうことだよ。こりゃもう離婚決定だな。」



嫌味っぽく言ってやるとダーリンはケロッとした表情で



「そりゃあ大変ですねぇ、ハニーが裁判所に駆け込む前にどこかに監禁しねぇといけないでさぁ。」



いや、裁判所に行く前に警察に行くよダーリン。



てか、コイツ警察じゃん。



そう思っていると頭にタオルをかけられ、そのままガシガシと頭を拭かれた。
コイツより俺の方が背が高いため嫌でも前屈みになり結構辛い態勢だ。




「……‥てかさぁ〜聞きたかったんだけど、何でダーリンて呼ばせてんの?キモいだろ普通。」 



「いや、俺的にはご主人様とかでも良かったんですけど、やっぱりここは基本中の基本のダーリンにしてみやした。」



「どんな基本だよ、そりゃ…‥」



俺がハァ…と、ため息をついて未だ頭を拭いている手をのけ、空を見た。
雨は殆んど止んでおり、雲の隙間からは光がちょいちょいでている。





「しかし、俺のことをダーリンと呼ぶ旦那は股間に毒ですねぇ。今にも襲いたい衝動にかられまさぁ。」



「そんじゃあいっそのこと毒にやられて使い物にならなくなっちまえばいいじゃねぇか。」



「そしたら俺も苦労しないですむから。」そう言ってやればコイツは何食わぬ顔で「俺のが使い物にならなくなったら困るのはハニーですぜ?」と糞生意気なことを抜かしやがるんで殴ってやった。