甘すぎてもダメ。


苦すぎてもダメ。



甘くてちょっぴり苦いくらいが丁度いい。


30







今日は女の子達が
好きな男の子に気持ちを
伝えられるチャンスの日。

女の子はこの日のために
夜中まで部屋中甘ったるい
チョコレートの薫りを漂わせ

男の子は内心ドキドキしながら

しかし平然を装ってその日を過ごす。





そうバレンタインだ。




江戸も最近まではバレンタイン
などなかったものの天人襲来で
外来の文化が根強く心頭したせいで

バレンタインやらクリスマスやらの行事が
当たり前のようになった。

そんなバレンタイン前日。



銀魂のヒロインこと
神楽もやはり女の子―。




「なぁなぁ新八ィ〜…‥」



気だるそうに台所で昼御飯を
作っている新八を呼んだ神楽は
居間のソファーでゴロゴロしている。



「何?神楽ちゃん?」



キュウリを切っている手をせわしなく
動かしながら神楽の問いに答える新八。



「バレンタインにチョコもらったらやっぱり男はその女に何か期待するアルカ?」



ピクッ


その言葉を聞いて新八は手の動きをとめた。



「うっ…‥うーん。期待って言うか…そうだねっ!!!やっぱりバレンタインにチョコ貰うとやっぱり、この子僕に気があるのかなぁ〜って少なからず思うよっ!!!かっ神楽ちゃんはバレンタインにチョコ誰かにあげるの?」



「銀ちゃんにあげるネっっっ!!!!」



ガバッとソファーから飛び降りて
大声で叫んだ神楽は新八のいる
台所にどたどたとやってきた。



「へっ…‥へぇ〜。それだったら今日作ったらいいね。あの人今日1日珍しく仕事入ってて護衛の仕事で、夜はその家に泊まるらしいから。…‥他にチョコあげたりする人はいないの?」



「アネゴにもあげるネ」


「へっ…‥へぇ〜。姉上にもあげるんだ〜。ほっ…他には?」


「そんだけネ。」



「バレンタインの馬鹿野郎おおぉおおおぉォ〜!!!!!」 


「新八も一緒に作るヨロシ。」


「…‥えっ、僕も?」



「やっぱり手本がいた方が分かりやすいネ。だから新八作るヨロシ。」



何が悲しくて男がバレンタインデー前日にまるで乙女のようにチョコをつくらねばいけないのか…‥。しかも教える神楽でさえチョコをくれないのに…‥


そう思いながらも
押しに弱い新八は結局神楽と一緒に
バレンタインチョコを作るのだった。












「だあ"ぁ"あ"あ"ぁ"ァ"――ッ!!!
神楽ちゃんっ!!!ストップストップ―ッ!!!」


「うるさいネ新八。ダめがねのくせに私に指図するなんて1000年早いネ。黙って見てるヨロシ。」


「神楽ちゃんが教えてっていったんでしょ!!!!」





キュウリ尽くしの昼御飯の後、
スーパーに行ってチョコを買ってきた二人は早速
チョコを作り始めたのはいいものの




「腹持ちを良くするために米を入れるヨロシ。」


などと言い、溶かしたチョコに生米をぶち込んだり、


「やっぱりオリジナリティーが大切ネ。酢昆布いれるアル。」


と、もうすぐ出来上がるチョコに酢昆布を大量にいれたりする神楽。それを必死に阻止する新八。




気が付けばもう夕方。
部屋中酔う程の甘ったるいチョコレートの匂いが漂う中、神楽もやっとのことで不恰好ながらも一応、チョコと呼べるものが完成した。




「………‥っできたアルッ!!!!」



「…‥うん。やっと食べれるチョコが出来たね。後はラッピングだけだけど、神楽ちゃん、袋にする?箱にする?」



「箱にするネ!!!そんで箱の裏に文字書くアル!!!」



「へぇ〜。それいいアイディアだよ神楽ちゃん。何て書くの?」



「内緒ネ。」




そう言いながら新八から箱をうけとった神楽は居間に行って箱に何かを書き始めた。




「はははっ。神楽ちゃん、凄いイキイキしてる。やっぱり普段、げろとか吐いても神楽ちゃんは女の子なんだよな〜。
チョコ作ってる時も一生懸命だったし。
よっぽど銀さんが大好きなんだね、神楽ちゃん。」



と、自分が作ったチョコをラッピングしながら、頬笑むのだった。




――――――
――――――――…‥






『えっ!!!これ神楽が作ったの!?!?』


目を見開き驚く銀時に自信満々に答える神楽。


『そうアル。私が作ったネ。』


『ちょっ!!!手作りチョコじゃん!!!銀さんすげー嬉しいんだけどっ!!!
銀さんすげー思われてるな。』



『そうネ。私銀ちゃんが大好きアル!!!』



『神楽…‥お前…‥。』







「ぐへへ…‥。銀ちゃんきっと私のこと好きになるネ」



そんな妄想を膨らましながら、明日チョコを渡す相手を思い、頬笑みながら押し入れで眠る神楽であった。


―――――
―――――――――…‥







「うぃィ〜‥…。ただいまァ〜。」



玄関が開くと同時に、声が聞こえる。



「あっ!!!神楽ちゃん。銀さん、帰ってきたよ!!!」



新八がそう言うと、神楽は居間のテーブルに置いてあったチョコを持って玄関へ騒がしいお出迎え。



「銀ちゃんっっ!!!!お帰りアル!!!」



ドコォッ!!!


帰ってきて早々に銀時は神楽に熱烈なボディアタックをうけた。



「ちょっ!!!。銀さんもうクタクタで死にそうだってのにィ…止めをさす気かコノヤロー!!!!」



そう言いながら、お腹にへばりついた神楽を引き剥がして、玄関に腰をおろした銀時に、神楽の後に続いてやってきた新八が、



「銀さんお疲れさまです。ちゃんと稼いできましたか?」



「ふふふ。銀さんをみくびってもらっちゃァ〜こまるょ。」



そういって左手に持った袋から取り出した封筒には



「えっ!!!!たった1日の護衛でそんなにもらったんですか!?!?」



「おうよ。いやぁ〜さすが銀さん。依頼人がストーカー被害あってて、昨日の夜に依頼人の家にいたところ、ストーカーが俺のこと依頼人の新しい彼氏だと思ったらしくてさ。
家に乗り込んできた所を、銀さんがかっこよく、バシィ―ッとやっつけてさ。
いやぁ〜銀さん強くてかっこいいじゃんっ。
そんで依頼人が、倍の金額とバレンタインだからって有名デパートのチョコくれちゃってさ。
モテる男は大変だよ全く。」



そういって嬉しそうに見せたビニール袋の中には綺麗にラッピングされた色とりどりのチョコレートが。



「その依頼人さん。こんなにチョコくれたんですか?」


いくら気前のいい依頼人だからといってこんなにたくさん高そうなチョコをもらうのはおかしい。



「あぁ〜…。なんかさァ〜そのストーカー捕まえてから、依頼人が真撰組に連絡してさ〜。そんで…‥」



「そこにきたサド野郎とマヨネーズ野郎にもらったアルカ?」



銀時が言い終わる前に、さっきとは打って変わって機嫌が悪くなった神楽が言った。



「そうなんだょ。総一郎君はもとから銀さんにくれる予定だったらしくてさ。ありがたく貰ったんだけど、ニコチン野郎は、なんかたまたまポケットに入ってたからやるってさ。
あの野郎ぜってぇ〜俺への嫌がらせだよアイツ。

何でたまたま有名パティシエがつくるガトーショコラがポケットの中に入ってるんだよ。どんな確率だよ。もはや奇跡だわ。

しかも何か上に黄ばんだ物体が乗ってんだよ。

何あれ、ケーキ大好きな銀さんへの嫌がらせ?ぜってぇそうだわ。何アイツ。
腹立つんですけど!!!!何でマヨネーズぶっかけてんだよっ!!!!」



そんなことを言いながらも「まぁケーキは悪くねぇから一応貰っといた。」なんてまんざらでもない顔をする銀時。



あーあ。
そんな顔された後に高級でも、ましてや有名パティシエ何かが作ったのと程遠い私のチョコなんて…‥


そんなことを思うと、もはや嫌なことしか浮かばない。


もし、まずいって言われたら?





「あっ!!!!そうだ神楽ちゃん。銀さんにチョコあげるんでしょ。銀さん。神楽ちゃん、銀さんのために昨日僕とチョコ作ったんですよ。」



「おっ。マジでか。ちゃんとしたチョコ何だろうなぁァ〜?銀さん、甘いもんには、厳しいよ。てか何で新八も作ってんだよ。」 


「成り行きです。」


「どんな成り行きっ!!」



「さっ!!!神楽ちゃん。そのチョコ銀さんに‥…


「ないアル。」



「…………‥いや、ないって神楽ちゃん右手にチョコ…‥


「ないアル。」


「いやだって…‥


「ないアルっ!!!!!!」



そう叫んだ後、神楽は新八を殴って押し入れにかけこんだ。




「‥…‥何で僕殴られたんですか銀さん?」 



そう言った新八には見事なたんこぶが。



「あれだよ。あれ。女の子の日で苛々してんだろ。」



「銀さんがちゃんとしたチョコだろうな〜。何て言うからですょ。せっかく神楽ちゃん一生懸命作ってたのに」



「だっておめェ〜。あの神楽だぜ。つねに酢昆布食べてる奴だぞ。ぜってぇ中に酢昆布入れてるだろ。」



「…‥取り敢えず銀さん謝って下さいね。

この年頃の女の子はいろいろ難しい年頃ですから、これがきっかけでもし神楽ちゃんがグレたりしたらどうするんですか。」 



少し強めに銀時に言うと



「あぁ〜もうッ…‥。分かったよ。いきゃ〜いいんだろ。いきゃ〜。てかお前何様だよ。新八のくせに。」



そうぶつぶつ文句を言いながらも銀時は、押し入れに引きこもる神楽のもとに歩いて行くのだった。



「…‥全く。素直じゃないところなんて本当にそっくりだよな。あの2人。ま、何やかんや言って銀さん。神楽ちゃんに甘いし、ほんと、仲のいい親子みたいだ。」







――――――
―――――――――…‥



「神楽ァ〜…。」



「………‥。」



「おい。何シカトしてんだよ。てか何でいきなりキレたんだよ。」



「………‥。」



「反抗期ですかァ〜コノヤロー。銀さんのこと嫌いになっちまったのかァ〜。」



「……‥。」



好きアル。例え他人が親子や、銀ちゃんが私のことを娘みたいに見ていたとしても私は一人の女として銀ちゃんが好きネ。


一人の女として見られたい。



だけど甘えてしまう。

貴方の甘さが、私を余計に子供っぽくさせる。

甘い甘い甘い。


でもその甘さは
今、なぜだか苦い苦い苦い…‥。





「…‥はぁ。神楽ァ〜。お前に一ついいこと教えてやるよ。」


「………。」



「おらァ生まれてこの方、手作りチョコ何て貰ったことねぇ〜んだよ。

分かるか神楽?

お前が銀さんに手作りチョコを初めて渡した女になるの。Ok?」





あぁ―…‥
甘い甘い甘い甘い甘い。


もはやこれは一種の麻薬のように―‥。
依存してしまうほどの甘い貴方。






ガラガラガラ…‥




「やっと出てきたな。」



「…‥高級チョコじゃなくて悪かったアルな。」



悪態をついて銀時にチョコを渡せば



「おっ、サンキュー」



溶けかけた、歪な形のチョコを口に運ぶ。



「…‥味もビミョーで見た目最悪だけどさァ〜。何かわっかんねェ〜けど、


今まで食べたチョコの中で一番うめェ〜わ。」



「……当然アルな。」



まだ子供な私は甘い言葉や態度何て出来ない。

だからせめて


箱の中には甘い甘いチョコと


精一杯の愛の言葉を添えて―…




「んっ…‥?箱の裏に何か書いてんぞ?
……‥ははは。何可愛い〜ことしちゃってんだよ。…‥ッたく。モテる男はホント大変だよ。」








『銀ちゃん大好きアル』