「……なあ、」
「なあに?」
「なんでBクラスなんだ?」

それは最近なんだか当たり前のようにあたしが練習している教室に入り浸る来栖くんの何気ない疑問が始まりだった。

「…どう言う意味?」

首をかしげながらそう来栖くんに聞いてみれば彼は「だってお前上手いじゃん。Sクラスの奴より上手いんじゃね?」なんてけろりと言ってしまう。おいおい、それは言い過ぎじゃありませんか来栖くん。あたしは苦笑いをこぼしてからぽつりと呟いた。

「運も実力のうち、だからかなあ」
「…はぁ?」

あたしの一言に怪訝そうな表情をする来栖くんにあたしは「バカにしないって約束してくれる?」と聞いてみれば「お、おう」すんなりと返事が返ってきた。なのであたしは一呼吸おいてから、ぽつりぽつりと喋り出す。

「…ここを、受験した日まで話は遡るんだけど、あたし、受験日に消しゴム忘れちゃったの」
「………え、」
「頭もよくなくて、いつもなら間違えばっかりで、あたしはいつも消しゴムをありがたく使ってたんだけどたまたまその日は忘れちゃって。そんなときに親が言ってた運も実力のうちって言葉を思い出してね、自分を追い込んで試験を受けたの。」

だからだと思う。と言えば来栖くんは「……」なんとも言えない表情であたしを見ていた。

「………ちょっとなんかリアクションしてよ」
「あー、予想以上に小鳥遊がアホだと判明した」
「あ、ひどい!」
「試験当日に消しゴム忘れるとかドジじゃん」
「………う、」
「でも小鳥遊らしい気もするけどな」
「なっ!あたしそんなにおっちょこちょいじゃないよ!」

そう言い返すと来栖くんは「そーか?」と笑う。

「これでも地元だったらしっかり者の真綾ちゃんってご近所さんに言われてるんだよ!」
「だったら俺はさらにしっかり者だよな!」

自慢気に笑って胸を張る来栖くんにあたしは「えー!」と声をあげれば「なんだよ!」とムッとした声色で言われるので「来栖くんよりあたしが上!」そう言い返したら「おーれーがーうーえーだー!」と大きな声で叫ぶからあたしも負けないように大きく息を吸った。

あの日のうた

「あーたーしーがー!うーええええー!!」

このあとたまたま通りかかった日向先生に「うるせえぞテメェ等!」と怒られるのはあたしたちだけの秘密だ。


- ナノ -