「どうしよう、レン様が退学になるかもしれない!」

そう言ってクラスメイトでルームメイトでもある友人が慌てて走ってきたのはお昼休みのことだった。


「レンさま?だれ、それ」

お弁当のたこさんウィンナーをもぐもぐと食べながらそう聞いてみれば「え、真綾知らないの!?」「うん」「本当に?ありえない!」驚かれてしまった。

「レン様はね、成績優秀者しかいないSクラスのアイドルコースの人で、小麦色の肌に金色の長い髪がマッチしてて、長身にすらりと伸びた手足に甘いマスク!そして口から発せられるあの心地よい低温ボイス!はあああ、素敵…!」

わたしに説明してくれていた友人は、うっとりした表情で自分の世界へと旅立ってしまった。なので、わたしと同じようにお弁当を食べる友人へと目線を投げ掛ければ「…しょうがないなあ、」と言いつつ説明してくれた。ありがたや、ありがたや。

「神宮寺レン、17歳。Sクラスのアイドルコース所属ね。神宮寺財閥の三男坊らしいよ。で、いつも周りには女の子が沢山で、甘い言葉のオンパレード。この学園にも神宮寺信者はたくさんいるみたいだよ」
「………神宮寺信者、」
「まあ、女には優しいみたいだし知ってても損はないよ」
「わかった」

頷いてからお弁当を片付けて財布をもって立ち上がれば「あれ、どっか行くの?」と聞かれたので「飲み物買いにいってくるね」と答えれば「あたしストレートティー」「あたしもオレンジジュース」と口々に言うので「はーい」と返事をして教室を出た。



「ストレートティー、オレンジジュース…うーん、どれにしようかなあ」

頼まれた分を両手に抱えて自分の分をどれにしようかと迷っていれば後ろから爪を綺麗な真っ黒に塗った手がにょきっと伸びてきてミルクたっぷりのカフェオレのボタンを押した。

「あーっ!」

後ろを振り返ってみれば笑っている来栖くんの姿

「来栖くんかあ!吃驚させないでよー!」
「へへっ」

どっきり成功だな!と笑った来栖くんにつられてあたしも口元が緩む。

「どんだけ買うつもりなんだよ?」
「これ全部あたしが飲むんじゃないよ!このふたつは友達のだもん」
「で、お前のは?」
「買おうとしてたら来栖くんが驚かしてあたしの分を買ったんじゃん」

むう、と唇を尖らせてみれば来栖くんは「ごっつぁんです」と言って笑った。

「あたしの分のお金かえせー」
「今もってませーん」
「ええー」

自販機の前でそう話していたら来栖くんが「あ、レン!」大きく手を振った。

「…ん?レン?」

どこかで聞いたことのある名前だなあ、と首をかしげて見れば随分とはだけた制服の着方をした人がいた。わあ、なんか破廉恥!

「ん?なんだいおチビちゃん」
「チビ言うな!お前小銭とか持ってないか?」
「小銭?あるけどそれがどうかしたのかい?」
「貸してくれ!」

目の前で起こる出来事にぽかん、と見ていたら来栖くんと話していた人があたしに向き直る。

「うちのおチビちゃんが迷惑をかけたみたいだね」
「え、や、そんな迷惑だなんて!」

ブンブンと首を振れば「優しいレディだね」と優しく笑う。

「レッ、レディ!?」

言われたことのない言葉にあたしは吃驚してしまう。すると「驚いた顔も可愛いね」なんて優しく笑うからあたしの顔は熱を帯びてくる。イケメンだからこの人余計に心臓に悪い…!

「顔もこんなに赤くして」
「…う、」
「可愛いレディだ」
「………っ、」
「……〜〜っレン!」

恥ずかしさの限界だったあたしの前に来栖くんがずいっと出てきた。た、助かった…!ほっとしていたあたしの目の前では「へえ、おチビちゃん、そういうこと」「どういうことだよっ!」なんてやりとりがされていて、それをぽかん、と見ていたら「またね、レディ」とあたしの手のひらにジュース一本分のお金を置いて歩いていってしまった。

神宮寺教教祖様

「…ああ!」
「うお!どうした?」
「教祖さまじゃん!」
「教祖さまぁ?」


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