入学してまだ間もない頃、あたしはまだ学校の見取りを覚えてなくて迷子になった。

「…ううっ、ここは、どこー」

キョロキョロと辺りを確認しながら廊下を歩く。かれこれ30分くらい歩いてるはずなのにひとっこひとり見当たらない。あたしは持っていたクリアファイルとキティーちゃんの顔をしたペンケースをぎゅっと抱いて廊下をひたすら歩いた。…ら、勢いよく誰かにぶつかった。

「うお!」
「きゃあ!」

ドンッ!と大きな音をたててあたしはその場に尻餅をついてしまった。クリアファイルに入っていた楽譜もばらまいてしまった(が、楽譜が…!)。多分ぶっかつた人もあたし同様転んでしまったようで「いってー…」と呟く声が聞こえた。ジンジンとお尻からくる痛みに涙目になりなりながらも堪えていれば「おい、大丈夫か?」なんて声と一緒に手が差し出された。

「あ、ありがとう…」

差し出された手に自分の右手を重ねて引っ張ってもらった。スカートについたホコリをぱふんぱふんとほろって廊下にばらまかれた楽譜を拾おうとしゃがみこめばぶつかった人(あたしより少し背の高い男の子だった)も拾うのを手伝ってくれるらしくあたしとは反対側にしゃがみこんだ。なんていい人なんだろうか!

一通り拾い集めて一緒に拾ってくれた男の子からもお礼を告げて楽譜を受けとれば「それお前が作ったのか?」なんてきかれて頷けば「すごいな!」笑顔で言われてしまった。

「すごいだなんてそんな滅相もない!あたしなんてまだまだだよ!この曲だってまだなにか足りないような感じがしてるし」
「何が足りないんだ?」
「それがあたしにはわからなくて…」

はあ、と息を吐けば目の前にいた男の子は「じゃあ、俺に聴かせてみないか?」なんて言われた。

「…え、」
「自分でわかんないんだったら第三者に聴いてもらった方がわかったりするだろ?」
「ま、まあ、たしかにそうだけど…迷惑じゃない?」

ついさっきぶつかっただけの人なのに、と言えば彼は「まあ、いいじゃん。これもなんかの縁だろ!」と笑うからあたしも「じゃあ、お願いします」と笑った。

これが、はじまりだった。


未完成世代


「俺は来栖翔!」
「あたしは小鳥遊真綾」
「よろしくな」
「うん、こちらこそ!」



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