「花村さん、それ半分持つよ」

そんな声が聞こえたと思ったら鼻の辺りまで山積みになっていた数学のノートたちはあっという間に胸よりも下の位置にまで減ってしまった。いきなりなくなってしまった重さに吃驚しながらも隣を見れば半分以上のノートを持った藤真くんの姿

「藤真くん、それ半分以上あるよ?」
「そう?俺には半分に見えるけど」
「…藤真くんクラス違うのにごめんね、ありがとう」
「気にすんなって、どこに持ってくんだ?」
「んと、数学準備室」
「よし、じゃあこっちか」

少し先にある曲がり角を右側へ曲がった藤真くんをわたしは小走りで追いかけた。

∵∴∵

「失礼しました」

数学準備室から出てからわたしと同じように出てきた藤真くんへと向き直る。

「ありがとう、藤真くん」
「いいって、いいって」

にっこり笑ってそう言った藤真くんをみてきっとこれが女の子たちが騒ぐ王子スマイルなんだろうなあ、と思う。

「…藤真くんの笑顔って綺麗だよね」
「えっ?」
「えっ?あ!」

どうやら思っていたことがうっかり口に出てしまったみたいだ。慌てて口を押さえるけどしっかり藤真くんに聞こえてたらしく彼は照れたような表情で頬を掻いた。

「えっと、その、あのね…」

なんと言ったらいいのかわからなくて困っていたら藤真くんは「ありがとう」と笑った。

うん、やっぱり綺麗だ。
つられるようにわたしも笑ってから「あ、」と思い出したようにブレザーのポケットに手を突っ込んだ。

「藤真くん、甘いの大丈夫?」
「甘いの?平気だけど…」
「よかった。じゃあ、これあげるね」

コロンと藤真くんの掌に包装紙にくるまれた飴をふたつほど乗せる。

「…飴?」
「うん。運ぶの手伝ってくれたお礼だよ。疲れたときは甘いものがいいって言うからこれ食べて部活頑張ってね」

そう言って歩き出せば後ろから「ありがとう、頑張るよ」と藤真くんの声が聞こえた。


幸せ降らしの少女


「……へへ」
「どうしたんだ、藤真。飴玉なんか眺めて」
「お、花形!聞いてくれよ!この飴な、花村さんがくれたんだ!これ食べて部活がんばってね!だって!」
「ああ、それで眺めてたのか」
「あー、やべー、食べるのもったいねー!」



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