都心から車を走らせて約二時間ちょっと
車から見る景色はたくさんのビルから木々が生い茂る自然な風景へと変わる。そのなかでも家が立ち並ぶ場所から少し離れた所にある赤い屋根の家の前に車を停めて車から降りる。数年ぶりに来るおばあちゃんの家はなんだかとても懐かしい。

「…なあ、」
「ん?」
「ネクタイ曲がってないよな?」

少し堅い表情でいつの間にかネクタイをしている元希に「緊張してるの?」と笑いながら聞いてみれば「まあ、な…」小さく返事が返ってくる。

「大丈夫、おばあちゃんもおじいちゃんも優しいから」

折れていたシャツの襟を直しながらそう言えばさっきよりも柔らかい声色で返事が返ってきて、あたしは笑って「じゃあ、行こう?」と元希の手をぎゅっと握った。

「こんにちはー」
「お、お邪魔します」

引き戸をガラリと開けて玄関で靴を脱いで居間へと向かう。

「まあまあ、千紗ちゃんよく来たねえ。疲れたでしょう?」
「そうでもないよ、おばあちゃん」
「ほら、座って。今お茶淹れるから」
「うん、ありがとう」
「千紗ちゃんの旦那さんもほら、座って」
「あっ、はい、ありがとうございます」

元希のぎこちない動きにおばあちゃんは「緊張してるのねえ」なんてのほほんと笑って居間から出ていってしまった。


:::


「お酒は飲むのかい?」
「あ、はい、飲みます」
「そうか、そうか。おーい、ばあさん、ビールくれ」
「はいはい」

ニコニコといつもよりも機嫌がさらにいいおじいちゃんにおばあちゃんは呆れ気味だ。おばあちゃん曰くおじいちゃんは元希のファンらしい。

「千紗ちゃん、ちょっとお手伝いしてくれるかい?」
「うん!あっ、元希、あんまり飲んだら駄目だからね」
「おー」

ビールを片手に返事をする元希にちゃんとわかってるんだか、と思いながら台所に向かう。台所は煮物のいい香りが漂っていて、その匂いに刺激されたのかあたしのお腹が小さくぐぅ、と鳴った。恥ずかしくてお腹に手をあてて俯くあたしをみておばあちゃんは「千紗ちゃんのお腹は待ちきれないみたいだねえ」と言った。

「だってここいい匂いするんだもん」

夜ご飯まであと少し。あたしのお腹ちゃん、我慢してちょうだいよ、なんて念じながらあたしはおばあちゃんのお手伝いをするべく服の袖を捲った。



:::



「ごちそうさまでした」

お箸をおいて両手をあわせてごちそうさまをする。隣で食べていた元希はあたしよりも前に食べ終わり今は外で柴犬の太郎とじゃれあっている。

自分が食べた食器と空いてる食器を流しに片付けてまた座ればあたたかい緑茶を差し出された。一口飲めばぽかぽかと暖かくなる。ふう、一息つくとおじいちゃんはあたしの名前を呼んだ。

「千紗ちゃん」
「なあに、おじいちゃん」
「プロ選手の奥さんはいろいろと大変だと思うけど、しっかりと支えてあげるんだよ」
「うん」
「ちゃんと幸せになりなさい」

そう言って笑ったおじいちゃんとおばあちゃんにあたしはなんだか胸がぎゅーっと熱くなって涙が出そうになった。


こんなふたりになりたいな


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