「…あー!クソッ、書き終んねー!」

リビングからそんな声と頭をガシガシとかきむしる音が聞こえてくる。相変わらず短気だなあ、なんて思いながらついこの間買ってきたばかりのコーヒーを淹れる。うん、美味しそうないい香り。きつね色に焼けたホットケーキを三枚に重ねたお皿とコーヒーカップをふたつのせたトレイを持って「ちょっと休憩したら?」そう言ってコーヒーをテーブルに置いたら「おー…」力のない返事が聞こえてきた。

「あと何枚?」
「わかんねー」
「わかんないって…もー、大丈夫?代わろうか?」
「いや、俺がやる」
「そっか」
「おう。つーか千紗は終わってんの?」
「当たり前でしょ。ちゃんと出すひとには出したよ。親にだってちゃんと渡してきたし」
「ふーん」
「隆也には渡してないからね。元希が渡すと思ったから」
「おー、サンキューな」

ニカッと笑った元希に「どういたしまして。あ、それ終わったらお買い物行こうね」と告げれば「どうせ荷物持ちだろ」なんてブーイングが聞こえてくる。

「しょうがないじゃん、元希はいっぱい食べるんだもん」
「そうか?」
「そうだよ。あたしの倍は食べてるね、絶対」
「まあな」
「だからたくさん買わなくちゃいけないんだよ、わかる?」

そう言えば「わかった、わかった、荷物持ちでもなんでもしてやる」なんて返事が返ってくるからあたしはつかさず「よろしくね」と言って笑った。

そんなやり取りをしている間に元希はホットケーキを食べきってしまったらしく「ごちそうさん」空になったお皿とフォーク、それとお皿同様空になったマグカップを差し出された。

「ん、おそまつさまでした」

お皿とマグカップを受け取って隣においてたトレイに置いて、自分のマグカップも置いたトレイを持ってキッチンに向かえば「っし、やるか」と気合いの入った元希の声が聞こえてきて、あたしは出会ったときよりも逞しくなった元希の後ろ姿に小さく「頑張れ」と笑って呟いた。


君のために左薬指をあけておいたんだ


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