「…うわ、どしゃ降りだ」

お昼休み終了間際くらいからやって来た重苦しい雨雲は今日の授業が終わる頃には早乙女学園全体に広がっていて、まるであたし達を帰さないぞ、と言っているように勢いのある大粒の雨を降らせていた。

「どうしたもんかねえ、」

いつもならば寮までの道程を濡れて帰っても構わないのだけれど今日は鞄のなかに出来上がったばかりの楽譜(ちなみにこれが卒業オーディション時に歌う曲の基になる予定だ)があるために濡れて帰ることはできない。

しょうがない、職員室で龍也さんに事情を説明して傘を借りよう。と入り口でUターンをしようとしたら「…香穂か?」声を掛けられた。呼ばれた方に顔を向ければそこにはパートナーの姿がある。ぽけっと呆けてからあたしは親指をぐっと差し出して叫んだ。

「…ナイスタイミング!」







「まったく、天気予報くらい毎朝確認しろ」
「うん、ごめんごめん」
「謝罪は一回で十分だ」
「はーい」

楽譜が入った大事な鞄を両手で抱えるように持ち間延びをした返事を返せば「返事は伸ばすな」起こられてしまった。さっきからあたしばっか起こられていないか、仮にも年上なのに!なんて事は言えるはずもなく(明らかにあたしが悪くて怒られてるから)大人しく真斗の隣を歩いていれば名前を呼ばれた。

「なあに?」
「もう少しこっちに来い」
「…へ?」
「濡れる」

そう言って真斗があたしの腕をつかんで引っ張るので「おおう!」と女にしては色気もなにもない声が出てしまった。

「変な声を出すな」
「出したくて出した訳じゃないよ、真斗がいきなり引っ張るから」
「それは悪かった」
「いいよ、別に。傘にいれてもらってるし」

おあいこだね、と笑えば真斗も「そうか」と笑う。それからも今日出来上がったばかりの曲の話とか歌詞はどんな感じにする、とか話していたら雨が止んでいることに気づいた。

「…雨止んじゃったね」
「そうだな」

広げていた傘を閉じようとする真斗に「あ、待って」と声を掛ける。

「どうした?」
「んー、なんかもうちょっとこのままでいたいかなあ、と思って」

えへへ、と笑えば真斗も笑って「それもそうだな」と呟いてまた傘を広げる。

「…遠回りするか」
「賛成!」

笑いながら歩くあたしたちの上にはうっすらだけれど綺麗な虹がかかっていた。


虹の麓には宝物が


◎使ってる傘は番傘みたいな和風だと思う
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