「音也が風邪を引いたんです、どうにかしてください」
教室に入るなりトキヤにそう言われた。
「……音也が風邪?」
「はい」
「熱は?」
「知りません」
「朝ごはんは?」
「食べてないかと」
「………薬は?」
「テーブルの上に置いてきました」
トキヤの言葉にあたしは「おバカ」頭を軽く叩いて龍也さんがくる前にと駆け足で教室を出た。
♪
「…こんなもんかな、」
さおとメイトでスポーツドリンクと果物、冷えピタを買って向かうのは音也とトキヤの部屋。鍵はトキヤから預かっていたからそれを使って静かに入る。うーん、なんだか空き巣に入ってるみたいでへんな気分。
テーブルに買ってきたものを置いて寝ている音也に近づいてみれば辛そうにな表情で寝ていた。
濡らして絞ったタオルで音也のおでこに拭ってあげれば「…だれ?」小さく呟く声が聞こえた。
「あ、起きた?」
「…香穂、さん…?」
「うん。しんどいと思うけど熱、測れる?」
「…ん、」
大人しく熱を測る音也になんだかかわいいなあ、と思いつつタオルを水を張ったボウルに戻して絞れば「…測った」風邪を引いたせいなのか少し掠れた声であたしに体温計を手渡す。受け取った体温計をみれば38度7分だった。
「結構高いね…お粥、作ったけど食べれそう?」
「お腹すいてない…」
「うーん、でもちょっとでも食べないと薬、飲めないよ?」
「…苦いの嫌い」
「そういうこと言わないの」
ベッドの傍にある椅子座ってちょこっとだけよそったお粥を「はい、あーん」と差し出せばなんのためらいもなく「あー」と食べた音也はやっぱり可愛かった。
「じゃあ、薬も飲んだし大人しく寝てなよ?」
一通りの看病を終えて、遅くなってしまったけれど学校に行こうと椅子から立ち上がればスカートの裾をつかまれた。
「音也?」
「………」
呼び掛けても無言が返ってくるだけで、あたしは「しょうがないなあ、」と小さく呟いてから再び椅子に座り直す。
「音也が寝るまで、だからね」
そう言えば音也は嬉しそうに笑ってあたしの手をぎゅっと握った。
ついつい世話焼き
◎音也を弟にしたい