「………」

唖然と目の前にあるどす黒い、少し前までは立派な食料であったはずのものを見つめてみる。ちらり、隣にいるパートナーである来栖翔を見れば顔色は真っ青だ。うわあ、ひどい顔だ。そして目の前に座る彼、なっちゃんこと四ノ宮那月はお花を飛ばしそうな勢いでにこにことしている。なっちゃんの目にはこれがどう見えているんだろうか、気になる…かも。
好奇心のみで目の前の黒いものに手を出そうとしたら「やめろ、死ぬぞ!」あたしより少し小さいくらいのでもやっぱり男の子だと感じさせるような手でそれは遮られてしまった。

「やだなー、翔ちゃん。死にませんよー!手作りが一番安全なんですから!それに僕の手作りなんですよ!体に良い物しか入れてません!」

そう力説するなっちゃんに翔は「お前の手作りが一番危険なんだよ!」と叫んでいた。

「そんなことないですよー。はい、翔ちゃん、あーん」

ずぼ、と強引に翔の口に入れたと思えばそのまま翔はばたーん!と倒れてしまった。
え、ちょ、えええ!?

「あれ、翔ちゃん寝てしまいましたねえ、疲れていたんでしょうか」

顎に手を当てて考える仕草をするなっちゃんにに「あんたのせいだよ!」と言えるはずもなく「あー、うん、そう、かも…はは」と答えれば「では香穂さんも食べてください。はい、あーん」なんてフォークで一口サイズにしたそれをあたしに差し出した。なん、だと…!?ここであたしにも回ってくるのか…!

「や、でもなっちゃん、もう夜遅いし、こんな時間に食べたら太っちゃうかなーって…」
「大丈夫ですよ、一口くらいなら。それに香穂さんは軽いくらいですからもっと食べてもいいくらいです!」

じりじりと近づいてくるなっちゃんにあたしはじりじりと下がる。足元の方からは「に、逃げろ…!」なんて翔の声が聞こえる。そんな事を言われても逃げるスペースがありませんけど!なんて心のなかでツッコミを入れつつ目の前で眼鏡を光らせるなっちゃんを見上げる。

「香穂さん、はい、あーん」

逃げ場をなくしたあたしにゆっくりとフォークを差し出してくるなっちゃん。近づいてくる黒い物体にあたしはええい、覚悟を決めるんだ、女は度胸!と覚悟を決めてそれを口にふくみそのままなんとも言えない味にぷっつりと意識途切れた。そして途切れる瞬間に翔が少し前に言っていたことをあたしは思い出したのだった。


「あいつはトマトとレタスとキュウリで対人兵器が作れるぞ」


◎このふたりの掛け合いたのしい
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