いつもより早くセットした目覚まし時計があたしに朝を知らせてくれる

うっすらと目を開けてパコン、と目覚まし時計を止めてからぐぐーっと伸びをすれば少し目がしゃきっとする。ベッドから起き上がってカーテンを開けば眩しいくらいの朝日が部屋に差し込む。

本来ならば同室の女の子に眩しいと怒られてしまうんだろうけれど、同じ部屋にいた女の子はついこの間恋愛禁止の校則を破ったことが学園長にバレて退学になってしまった。「香穂さんは頑張って下さい、ごめんなさい」そう言って部屋を出ていった彼女はクラスも別で歳もふたつほど離れていたけれど慕ってくれて、明るくてかわいい子だった。そんな事を思い出したせいかちょっとしんみりしてしまって、あたしはパチンパチンと軽く両頬を叩いて気合いを入れなおす。

「よし、」

制服に着替えてから昨日のうちに作ってあったカップケーキと水筒にグレープジュースを注いで鞄に詰める。机の上にある書きかけの楽譜も鞄にいれて、ピアノのとなりに置いてあるトランペットケースを持って他の部屋の子達を起こさないように部屋を出た。

「んー、やっぱりいいなあ、」

寮がある場所から少し離れた湖のあるところに荷物を置いてゆっくりと大きく深呼吸をする。
自然が多くて朝だからか少しひんやりとした空気がからだの中を駆け巡っていく。深呼吸を数回してからあたしはトランペットケースを開けて最近吹けていなかったトランペットを取り出した。

「最近はピアノしか弾いてなくてごめんね」

そう呟いてからとりあえずマウスピースだけで吹く。やっぱり久しぶりなせいか口をならすのにも時間がかかってしまった。それからトランペットにマウスピースをはめて軽く音出しをしてからついこの間なっちゃんたちと一緒に見たスタジオジブリの映画で聞いた曲を吹いてみる。やっぱり耳コピだから若干音が違う。うーん、もっと精進しなければ。そんな事を考えながら別の曲を吹いていればガサ、誰かが草を踏んだ音が聞こえた。吃驚して振り返ってみればジャージ姿の担任でケンカの王子こと日向龍也先生の姿があった。

「………龍也さん?」

そう名前を呼べば「よお、」と軽く手を挙げて近づいてくる。「おはよーございます」と朝の挨拶を口にすれば「おう、おはよう」とつかさず返ってくる。

「…トレーニングですか?」
「ああ」
「朝からお疲れさまです」
「日課だしな。仁科はこんな時間にトランペット吹いてたのか?」
「え、ああ、はい。なんか無性にに吹きたくなっちゃって。一応寮からは離れたんですけど…うるさかったですかね?」

そう聞いてみれば「そんなことねぇよ」と言って龍也さんはあたしの頭をくしゃりと撫でた。

「ピアノも上手かったがトランペットもなかなか上手いな」
「へへ、ありがとうございます」
「ま、この調子で他も頑張れよ」
「はい」
「じゃあ、俺は行くけどトランペットに夢中になって学校に遅刻するんじゃないぞ」
「なっ、そんなことしません!」

力強く言うあたしに龍也さんは軽く笑ってから颯爽と走っていってしまった。そんな龍也さんの走っていく後ろ姿を暫く見送ってからあたしは再びトランペットを構えたのだった。


空気が澄んだ、晴れた朝


◎龍也さんに兄になっていただきたい
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