「なあ、まだ終わんないのか?」

そんな言葉と一緒に注がれる視線にあたしは居心地の悪さを覚えながらも「まだ終わんないよ」と答える。

「当分かかると思うし帰っててもいいよ?」

そう言えば翔はムッとした表情でおでこを軽く叩いた。な、なにすんだこんちくしょう!

「…いたい」
「ふん」

ムスッとしてそっぽを向く翔に「怒んないでよ翔ちゃーん」なんて呼び掛けてみれば「翔ちゃんなんて呼ぶなっ!」さらにそう怒られた。

「じゃあ機嫌なおしてよ」
「別に怒ってない」
「怒ってんじゃん」
「…」
「やっぱり」

ふう、と息を吐いてから握っていたシャーペンをキティちゃんのペンケースに戻して広げていた楽譜を片付ければ「なんで片付けてんだよ」ときょとんとした表情の翔があたしを見ていた。

「なんでって…パートナーのご機嫌とりも仕事だし?」

あたしの言い方にムッとした表情で「なんだそれ」呟くからあたしは笑って「ジョーダンだよ。これ以上やっても進まないし」そう答える。

「だから帰ろう?」

鞄のボタンをパチンと閉めてからそう聞いてみれば「おう!」といつものような笑顔で返事が返ってくる。

「機嫌なおった?」
「もともと機嫌悪くないぞ!」
「はいはい、そーゆことにしておくよ」

ポンポン、と頭(というか帽子)を叩けば「叩くなーっ!」と腕を掴まれた。腕を掴んだ翔の手はあたしよりもちょこっとだけ小さかったけれどやっぱり男だと感じさせるような手で、少しときめいてしまった。そんなあたしに気づいていない翔は「帰るぞっ」とそのままあたしの腕を掴んだまま教室を後にする。

引っ張られるように歩くあたしの目に写るのはじんわりと熱を持った腕と夕日に負けないくらい耳が赤くなった翔の後ろ姿で、あたしは小さく笑ってから掴まれた手を振りほどいて翔の手を自分の手でぎゅっと握った。


スロー・スウィートステップ



◎おしまい!
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