カリカリカリ
夕暮れの教室にシャーペンの音だけが響く。
「4時間目の国語ってなんだったっけ」
「漢文の三国志」
「そうだった、そうだった」
口を動かしながら手も動かす。弟の持っていた某テニス漫画のキャラでいえば「無駄のない動きやで、エクスタシー」って感じだろう。まったくエクスタシーではないけれど。ちゃくちゃくと書き進められた日誌はあと今日の感想みたいなところだけが空白であとは全部埋めた。
さっきからもう片方の日直は窓の外の何を見てるんだろうと思って「何みてんの?」と声をかけようとして外から聞こえてきた「はい、あと一周!」なんて声にああ、と1人で完結させてしまった。
「好きなら好きって言っちゃえばいいのに」
吐き捨てるように言った言葉に窓側に座っていた彼は「勘違いしてんな、ダァホ」とだけ呟いてあたしの前の席に座ってあたしからするりとシャーペンを奪い去っていった。
「あとオレ書くから」
「え、いいの?」
「おー」
「じゃああたしゴミ捨ててくる」
「おー」
そう言ってあたしは席から立ち上がって教室の隅にまとめていたゴミ袋をつかみ教室から出た。
「あんなに見つめてたら誰だって勘違いするでしょダァホ」
そう呟いてから何いってんだろ、と呆れて小さくため息を吐いた。それと同時にちょっと胸が苦しくなった。
きっと恋と呼んでしまうのは浅はかなのです