明日は休みだから今日は寝ないであと少しでクリアできるゲームを終わらせようとゲーム機の電源をつけたのがつい4時間前のこと。ラスボス手前の最後のセーブをして、喉が渇いたからキッチンに行こうと立ち上がった時、タイミングよく携帯があたしの部屋に鳴り響いた。これがメールだったら無視してキッチンに行くのだけれど今流れている着うたは電話用の着信音として設定してるやつだからそうもいかなくて。こんな時間に一体誰が電話かけてくるんだろうとイラッとしながら携帯を開く。ディスプレイには『着信:丸井ブン太』の文字

「もしもし」

――あ、もしもし葵?俺だよ、俺!

「詐欺なら間に合ってますんで。じゃ、」

――は、ちょ、お前バカ!俺だよ、お前のクラスの天才的イケメンの丸井ブン太様だっつーの!

「あいにくあたしの知ってるクラスメイトの丸井はブン太じゃなくてデブン太なんで」

――誰がデブン太だよ!まじお前ふざけんな!

「ふざけんなはこっちのセリフだよバカ!今何時だとおもってんの!」

――深夜2時

「普通なら寝てるじかんだっつの!」

――起きてんじゃん!

「で、何の用?」

――どうせお前暇だろ?ちょっとコンビニ行っておでん食わねえ?

「太るよ」

――奢ってやろうとおもったけどやっぱ奢らねえ

「ごめんなさい、あたしが悪かった!」

――わかればいいんだよ。っつーことで迎えに行ってやっから暖かい格好して外に来いよ

「了解!」

そう答えて電話を切ってあたしはゲーム機の電源を落とす。セーブはしてあるから帰ってきたら続きをやろう。暖かい格好と言うことであたしはモコモコのパーカーにマフラーをぐるぐる巻いて毛糸の帽子を被り、携帯と財布を持って部屋を出る。親も弟も寝ているのか家の中はしん、と静かで、あたしは物音をたてないようにゆっくりと階段を降りる。さっきの電話で起きないなんてさすがあたしの家族である。

玄関ではきなれたコンバースのスニーカーを履いて、大きな音を出さないように鍵を外して外に出る。ドアも音をたてないようにゆっくり閉じて鍵をがちゃりと掛ければもう大丈夫。表札の所でしゃがみこみながら丸井を待っていればチカチカと光る自転車のライトが見えてきて、立ち上がればキキッと目の前で自転車が止まる。

「遅いよ」
「これでも超特急で来たんだぜぃ」
「ふーん」
「まあ、いいや。乗れよ」

そう言われてあたしは丸井の乗る自転車の後ろに座る。アルミか何かでできているからか座るとお尻が少しひんやりとした。

「こっからだと公園のとこのセブンが近いよな」
「あー、それよりも近くにファミマ出来たけどセブンがいい」
「ん、了解。じゃ、捕まっとけよ」

そう言って丸井は自転車を漕ぎだす。最初なぐらついて丸井の背中に手をつけば「あぶねーってんだろぃ」とあたしの手を丸井は自分のお腹に回す。丸井に握られた手が、じんわりと熱くなる。

「丸井の手、あったかいねー」
「お前の手が冷たいだけだろぃ」
「えー、そんなことないし」

うりゃ、と丸井の上着のポケットに手を突っ込めば暖かくて「はー、あったかー」なんて自然に声が出た。

「あっ、おま、それあぶねーって!チャリ漕ぎにくいからやめろよ」
「えー、やだ!」

そう言ってケタケタ笑うあたしに丸井はわざと蛇行運転をするからあたしはびっくりしてぎゅっと丸井のお腹に手を回した。そんなあたしに丸井は小さく笑ってから

「コンビニ着いたらいくらでも手暖めてやるから今はそうしてろぃ」

なんて言うからあたしは返事をするかわりにお腹に回した手に少し力を入れた。

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