「はぐみちゃんに、なりたいなあ」
それは、いつのことだったか。
同じ大学の同じ学部で、講義を受けた時に席が隣になって、たまたまお互いの興味が合致して。打ち解けるのにそう時間はかからなかった異性の友人が、いつもは見せないような憂いた表情で、小さく呟いた。
「…………あんなに小さくなりたいのか?」
「真山って、たまにわかっててふざけたこと言うよね」
「すまん」
「や、別にいいんだけどさ。楽だし」
「…そうか」
「あーあ、なんてあたし就職先決まっちゃったのかなあ」
「おい、それ全国の就職先決まってない奴を敵に回す発言だぞ」
「だって大学に来なくなったら簡単に会えなくなるんだよ?」
「……あー、まあ、そうだな」
「だってあたしがあんなにがんばったのにあの人は真山ばっか構うし「おい!」…竹本くんきたらそっちばっか行っちゃうしはぐみちゃん来たら初日からあんなんだしさあ…ぐすっ」
隣からいきなり聞こえた鼻をすする音にぎょっとして慌てて隣を見れば膝を抱え込んで顔を見られないようにガードする姿が目にはいる。
「お、おい!」
泣くなよ、と声をかけながらもどうしたものかと周りを見てもまるで図ったかのように誰もいなくて(いつものやつらは少し離れたところで遊んでいる。なんでこういう必要な時に誰も居ないんだ)。
「…ね、真山」
「な、なんだ」
「なんで恋って難しいのかなあ、」
ずび、とまた鼻をすする音にポケットからティッシュを取り出して無言で差しだせば彼女は小さくお礼を述べて受け取り鼻をかむ。それからまた小さく、俺が聞き取れるくらいの大きさで呟いた。
「なんでみんながみんな幸せになれないんだろうね。…神様は、不公平だ」
そう言ってなにも言わなくなった彼女の頭に俺は手を乗せて「そうだな、」と呟いた。
本当に、神様は不公平だ
ぼくらは怯えているの