冬の海は風が強いし、寒い
それはしっかり理解はしているつもりだけど、雪が積もらないからわざわざお金を払ってバスに乗って学校に行くよりも頑張って15分かけて自転車で行く方が何倍もお得だとあたしは思っている。

「………げっ、あと10分しかないの!?」

あんたはもっと時間にきちんとしなさい!とお母さんが誕生日にくれた腕時計で時刻を確認すれば学年主任で生徒指導の田岡先生が校門前に降臨するまであと10分しかなかった。どうしよう、自分を極限まで追い込んでたんです!なんて言い訳もう通じるはずないじゃん!と頭の中で今日の言い訳を考えながら必死に自転車を漕いでいると「おーい、葵ちゃーん」海の方からそんな声がした。

「………え、」

聞き慣れた声に自転車を停めて海の方を見ればそこにはクラスメイトが大きく手を振っていた。どうやら彼は砂浜でひとり遊びをしていたらしく足元に砂のお城が見える。声を掛けられたしクラスメイトだからって理由もあってここで見捨てる、という選択肢はできなくて。あたしは自転車を降りて階段を降り、歩きにくい砂浜を駆け足で走る。あ、やば、ローファーに砂はいった。

「ちょっと、こんなところでなにしてんの、仙道」
「遊んでた」
「…………今何時か知ってる?」
「知らないけど」

なんで?と首をかしげる仙道にあたしは「携帯見てみなよ」と言えば彼は素直に携帯を取り出して(あ、あれ防水機能つきのやつだ)「あ、」と呟く。

「遅刻しそうじゃん」
「そう!田岡先生のお説教コースが待ってるんだよ!」
「え、それは困るなあ…」
「でしょ!あたしも困る!」

だから行くよ!と促せば仙道は「じゃ、行こう」とあたしの手をとり、走った。

「これ葵ちゃんの自転車でしょ?」
「そう、だけど…」
「俺漕ぐから葵ちゃん後ろね」
「え、は、え?」

砂浜ダッシュをしたせいかいまいち頭の回転が追い付かないあたしを仙道は自転車の後ろに乗せる。え、ちょ、これって…

「しっかり捕まってないと落ちるよー」

びゅうびゅうと吹き荒れる風なんか全く気にしてません!というような感じであたしの自転車を漕ぐ仙道にあたしは落とされませんように!としがみつく普通ならば羞恥心でこんなことできないけれど今は仕方がない。なんてったって緊急事態なんだから。

いろんな意味でドキドキしているこの心臓の音が仙道に聞かれませんように、とあたしはぎゅっと目を閉じた。あ、これ目、閉じたほうが怖い。


赤い自転車、走り出す
◎ゆきちゃんへ はなより
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