ぼんやりとコンクリートの上を列を作りながら一生懸命働いている蟻の観察をしていれば「なにしてんの?」そんな声と一緒にあたしの頭上に日陰ができた。
「蟻の観察してるんだよ」
そう言って目線をコンクリートから上に変えればあたしを見下ろす高瀬くんの瞳とぱちりと目が合った。若干太陽の光が眩しくて目を細めれば「あ、悪ぃ」と言って高瀬くんもあたしの隣にしゃがみこんだ。
「蟻の観察って何すんの?」
「うーん、じっと見るだけ、かな」
「…それって観察なんの?」
そう聞かれて「あたしがそれを記録したらね、なるよ」と答えれば「なんだ、それ」と高瀬くんは小さく吹き出して笑った。
「そういえば、」
「ん?」
「高瀬くんはどうして、ここに?」
部活のかっこ、だよね、それ
とグラウンドの土で汚れたユニフォームを見れば「ああ、今は昼休憩だから」と返事が返ってくる。
「お昼休憩?」
「おー」
「………高瀬くん、今何時?」
「さっき携帯みたらもうすぐ1時だけど」
「まじですか!」
帰らなきゃ!と立ち上がるあたしに高瀬くんは「もう帰んの?」なんて聞いてくるから「うん。お腹すいたしこれ以上ここにいたら多分日射病で倒れちゃうし」と答えれば高瀬くんに「いつからああしてたんだよ」と聞かれたので「うーん、もうすぐ1時ってことは2、3時間はいたかな」と素直に答えてへらりと笑えば「山田って実はバカだったりする?」なんて言われてしまった。
「た、高瀬くんひどい…!」
「あ、悪ぃ、ついうっかり」
ポリポリと頬をかく高瀬くんにむう、と唇を尖らせる。すると高瀬くんは「顔赤いからタコみたいだぜ」とさっきまでのしおらしさはどこに吹っ飛ばしてしまったのかおかしそうに笑った。
「え、うそ!?」
「ウソじゃないって」
「うわ、日焼けしたんだ…」
最悪だあ、と呟くあたしに高瀬くんは「じゃあ、これ被って帰れば」とあたしの頭にぽすん、と何かを被せた。頭に手を伸ばしてその何かを取ればそれは、野球部がいつも被っているはずの野球帽。目の前にいる高瀬くんをみればさっきまで被っていたはずのこれは見当たらない。
「えっ、これ高瀬くんのじゃん!ダメだよ!」
「いいって」
「よくないよ!だってあたし帰るだけだけど高瀬くんまだ部活!」
「いーって。おれもう一個あるし。それは山田が被って帰れって」
なんて高瀬くんに返した帽子は再びあたしの頭上へと返ってくる。
「ホントにいいの?」
「おう」
あまりにもいい笑顔で頷くものだから。あたしは帽子のツバをぐっと下げて「ありがとう」と呟いた。
夏がくる