「――しっかし、ティナも無茶を言いますよね」
「何のことかしら?」
「…例えばリカルド様とギル隊長が賊に殺されたことにしちゃったり、僕を馬車馬の如くこき使ってシュテルンとラッセンブルグを数回往復させたり…シュテルン王と側近を脅迫して箝口令(かんこうれい)敷かせて秘密裏に和平締結してその上ギル隊長の妹を助けて来いとか…」
「セレストは、全部うまくやってくださったではありませんか」
「……ティナが僕を脅迫するからですよ。守護騎士団に入ってからの失態を洗いざらい漏洩しちゃおうかしらウフフ、とか」
蒼い花の咲く隠し庭で、セレストとティナはゆったりと談笑していた。
相変わらずセレストはセレストで、近衛隊長になってからも度々こうして抜け出してくる。
一方のティナも時折隠し庭に訪れては、花の世話をしたりと、国王の表情を外していた。
進展したことといったら、セレストがティナの前で少しずつ素の口調を出すようになったことくらいで。
婚儀を経ても二人は二人のままだった。
――今日も今日とて、空は蒼く、木々は鮮やかな緑で、水面は澄んでいる。
セシアとマリエルの望んだ未来。
アゼルとキリエの守った世界。
リタとメルの遺志が、見守り続けた場所――。
一通の手紙に庇護されてきた世界は、これから自らの道を歩む。
愛という、小さな光を灯して――
―FIN―
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