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――半月後。

ラッセンブルグ城の広々としたバルコニーでは、濃紺のマントを風になびかせながら、一人の少女が一人の騎士を従えて立っていた。

少女は長い金の髪を背中で結わえ、きりりと引き締まった表情で眼下の広場に集まった群衆を見つめている。

やがて高い塔から鐘の音が響き渡ると、少女はバルコニーの手すりへと一歩ずつ歩み寄り、朗々とした声を発した。

「――ラッセンブルグの民よ、此度(こたび)は足労でした。既に皆の知るところでありましょう、半月ほど前になります、国王リカルド・フェンデ・ラッセンブルグは、城内に侵入した賊の刃により落命しました。侵入時王と談義していた近衛隊長ギル・ノスタルジアもまた即座に王を庇い背に一閃を受け絶命。ラッセンブルグは貴い二つの命を一日(いちじつ)に失ったのです。…王と騎士の頂点を失う未曾有の事態に、皆への通達が錯綜したことを詫びます。わたくしが至らぬばかりに、不安を蒔いてしまいました」

少女は言葉を切ると、神妙な面持ちでバルコニーを見守る群衆に向かって、ゆっくり微笑んだ。
一人の騎士が恭しく少女の一歩ほど後ろの左脇に歩み寄ったのを認めると、再び口を開く。

「――しかしながら、此度の事態で一人の英雄が生まれたのです。彼はいち早く事態を察し、ギル・ノスタルジアに匹敵する剣技で賊を処し、賊が次に狙ったわたくしの命を救いました。彼の名はセレスト・シオン。近衛隊に属する騎士であり、次期近衛隊長就任が決定しています」

――なんと、ギル様に匹敵するとな?
王女殿下を守った騎士――。

民が徐々に沸き立つ中、少女は朗々とした声のまま続けた。

「――ラッセンブルグの民よ、わたくしフィオレンティーナ・フェリカ・ラッセンブルグは今日この時より、亡き父王の遺志を継ぎ、ラッセンブルグの民を命ある限り守り抜くことを約束したく存じます。…皆に問います、フィオレンティーナを新王に任じて頂けますか――?」




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