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「…セレスト君やフィオレンティーナちゃんが『ギル・ノスタルジア』と認識していた人物だけれど、彼もそんな権力者に利用された一人だったわ。彼の生家はシュテルン辺境の没落貴族。若くして両親を亡くした彼は、幼い妹が安心して暮らせるようにとシュテルン守護騎士団に志願し、過酷な訓練に耐え抜き無事入団。抜きん出た素質もあって数年後には王の目にも留まるようになり――皮肉にも、密命を託されてしまった。王の側近の権力者に、妹をたてにとられてね。ラッセンブルグの民の命と妹の命、彼は常にもがきながら…妹の命を、選んでしまった」

続けざまに語り、リタは深く息を吐く。
その正面で、ティナは一度瞳を閉じ、そっと開いて、思い返すように口を開いた。

「…わたくしが謁見の間を覗いたちょうどその時、彼は父上を刺しました。わたくしは衝動のままに近くの壁に並んだ剣の一つを抜き、彼へと刃を向けたのです。…わたくしは、死を覚悟していましたわ。彼の実力では、わたくしなど一瞬でいなせることを存じていましたから。…けれど彼は、まるでわたくしに稽古でもつけるかのように打ち合いを続け、剣を挟んで、わたくしに隙を狙えと囁きました。――そんな折、セレストが駆け込んで来たのです」

「……ティナ…」

セレストは小さく呟くと、リタに向き直って緑の瞳を見据える。

「――リタ、貴女は私達がここに来た理由を知っていた。貴女は知っているのですね、ここに映されている兵器を、止める方法を」

澄んだ緑の瞳は、少しだけ揺らいで、床へと向けられた。

「…知っているわ。この部屋は制御ルーム…シュテルンの兵器と対の存在。距離はあれど、兵器と瞬時に繋がり停止させることが可能よ。この手元の板はね、ペンのようなもの。ここに文字を叩き込むと、モニタ…四角い部分に反映される。『ある言葉』を打ち込めば、この古代のキカイを含めた全ての兵器が跡形もなく…塵となって消え去る」


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