雨のメランコリー


「…で、サンジがデッカイ声出すから見つかっちまってよー。」


彼は昔のイタズラを悪びれる様子もなく、楽しそうに話す。




彼と、…ルフィと、昼休みに屋上で会うことが当たり前になって、私達は色々なことを話すようになった。


ルフィとゾロとサンジ君が幼なじみで、小学校、中学校とずっと一緒だったと初めて聞いた時は驚いた。意外なところに繋がりがあったものだ。

でも、意外ではあったけど、ルフィの話を聞いているうちに、大人達をさぞ困らせたであろう悪ガキ3人組の姿が容易に想像できた。


きっと、小さい頃から何も変わってないんだろうな。

そう思うと自然と笑いがこぼれる。






衣替えの季節になって、夏服に着替えた彼は、何故だか大人っぽく見えて、少しだけ眩しい。


ルフィは自分の思い出話を一頻りし終えて、フェンスの方を向くと寄り掛かりながら「いい風だなー」と気持ち良さそうに目を細めている。

その横顔を盗み見るのが私の密かな楽しみでもある。


風が吹く度に少し靡く髪と大きな瞳、意外に高い鼻と、その下には柔らかい、…唇。







“あの時のこと”を、どうしてルフィは何も言わないんだろう?

ルフィにとっては、大したことないただの事故で済まされているのだろうか。


せっかく、こうやって普通に話せるようになったのに、今更蒸し返されても困るのだけど。



でも、確かに、あれは…。




「…おい!ナミ、聞いてんのか?」
「えっ…ごめん。聞いてなかった。」


ルフィに呼ばれて、慌てて視線を逸らした。
考えていたことがバレてしまいそうで、恥ずかしくて顔が見れない。


「どうしたんだ?ボーっとして。」
「な、何でもない!」
「ふーん。なぁ、それよりお前明日ヒマか?練習試合があるんだ。見に来いよ!」
「まぁ、空いてるといえば空いてるけど…。ていうか、アンタ部活やってたの?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「初めて聞いたわ。何部?」
「バスケ。」
「へぇー、意外。じゃあ何で…、と。」

思わず失礼なことを言いかけた自分の口を抑えた。

けど、遅かった。

「お前、今『じゃあ何で小さいの?』とか言おうとしたろー。」
「いや、別に、そんな、ことは。」
「いいんだ!俺は今、セーチョーキだからな!それに、俺は背は高くないけど強いんだ!」
「あら、自信たっぷりね。」
「おう!見に来るだろ?」
「う、うん…いいけど。」

何も考えずに咄嗟に了解してしまった。


あ、でも明日は土曜日…ノジコのお店を手伝わないと…。


やっぱり、と断ろうとしたのに。


「俺、頑張るから!」


そんなキラキラした笑顔を向けられてしまっては、断れるものも断れなくなってしまった。



何でだろう。



私は彼に、弱点を握られているみたいだ。













何で、彼は私に試合を見に来いなんて言ったんだろう。



家に帰っても何もする気が起きなくて、部屋のベッドにそのまま倒れ込んだ。


「はあぁ…。」

枕を抱き込んだまま溜め息をつくと、より気分が滅入ってくる。



彼のことだから、他意はなく、単純に自分が活躍しているところを見て欲しいだけなのだろうけど。


でも、どうして、私に?



多分、それにも意味はない。


誰かを誘おうと思い付いたその場に私がいたから。ただ、それだけのこと。



たかが試合を見に行くだけなのに、こんなに悩むなんて。




「あー!もう、余計なことは考えないっ!!」



「どうしたの?そんな、大きな声出して。」
「ノ、ノジコ!いきなり部屋開けないでよ!」
「さっきから、ずっとノックしてたわよ。お風呂空いたから呼びに来たのに。ていうか、あんた帰ってきてから着替えもしてないの?」
「あ…。」


言われてみれば、制服も脱がずに学校から帰ってきたままの格好だった。


「ん、ちょっと考え事してて…あ!ねぇ、ノジコ。明日なんだけど、」
「明日?」
「うん、明日…午後から少しだけ、お店抜けてもいい?」
「別にいいけど。何か用事?」
「友達と、約束しちゃって。」



友達。

そう言葉にしてから、いきなり全身がむず痒くなった。



友達。



友達?




私と、ルフィが?




「ふーん、そういうことね。」
「何よ、その顔…。」


ノジコは、したり顔で何かを言いたそうにしている。


「最近のあんたの様子がおかしいのは、そういう訳かぁって思って。」
「はぁ!?違うわよ!何言って…。」
「あ、そうだ!ちょっと待ってて!」



ノジコはそう言うと自分の部屋に行って、5分と経たないうちに戻ってきた。


「これ!ナミ、可愛いって言ってたでしょ?明日貸してあげる。」


言葉と同時に、胸元にグイっと押し付けられたのは、ウエストで切り返しの入った白いシャツワンピース。
確か、ノジコのお気に入りだったはず。


「いいわよ!そんな大した用事じゃないから。」
「いいの!遠慮しないの!姉は何でもお見通しなんだから。その代わり、うまくいったら教えなさいよ!」

私の言い分を何一つ聞かずに、ノジコは一気に捲し立てて、最後にウインクをするとさっさと自分の部屋に帰ってしまった。



私は半ば強引に手渡されたワンピースを掴んだまま立ち尽くしていた。



ノジコは何かを勘違いしている。

こんな可愛い服着てっても意味ないのに…。



明日は練習試合を見に行くだけ。




でも、彼と学校以外で会うのも、バスケットボールしているところを見るのも初めてだ。





それは、確かに、少しだけ楽しみ。











明日は雨の予報が出ていたけど、室内だから問題は無いだろう。




寝る前に、こっそりケータイで明日の天気をチェックした。





何だかドキドキして、

眠れない。






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