最悪の年明けにしてしまった。
ルフィがダメなら他の人なんて、そんなこと出来るわけが無かったのに。
あの日からサンジ君には会っていない。
1月に入ってから再開した部活も仮病を使って休んでいる。合わせる顔がない。 でも、こんなこともいつまでも続けられる訳もない。
明日から新学期が始まる。
いつも通りの校長先生の長い話。 そんなものは、もちろん聞いていなくて。目線だけで一年生の列、ビビを探していた。
本当に転校したんだ…。
いつも、心のどこかでビビのことを羨ましいと思っていた。 自分は待っているだけで、何も動いていないのに。
もし、私が同じように転校することになったとしたら、同じように本当の気持ちを伝える勇気が出たんだろうか。
考えても意味ないことだけど。
代わり映えしないクラスで代わり映えしないホームルームが始まる。
でも私にとっては、2学期とは全く違う空間のように感じられた。
私が座る後ろの窓際の席から、教室のドアの方を見ると、前から二列目に座るサンジ君の背中が見える。
酷い傷付け方をした。
あの後、ちゃんと話なんて出来なかった。 ごめんなさいと繰り返して泣きじゃくるだけの私にサンジ君は何も言わなかった。 泣かないでとか、そういうことは言ったかもしれない。
私が泣くなんて筋違いもいいところ。
もう、前みたいにふざけたり笑いあったりすることもなくなる。
大切な友達だったのに。私が、間違えた。
ホームルームが終わると、みんなが足早に帰っていく。
その流れに入っていく気になれなくて、みんなが帰った後にひとりでゆっくり帰ろうと席に座ったまま、ボーッと時間を過ごしていた。
ふいに、目の前に影が出来る。 顔を上げなくても誰かはわかった。
「ナミさん、話がしたいんだ。」
サンジ君に連れられてサッカー部の部室に入る。今日は部活も休みで誰かが入ってくることはない。
私が一週間近く休んだだけで、洗濯物は山のように溜まっているし、至るところに備品が出しっぱなしで荒れ放題だ。 よくぞここまで汚く出来るものかと感心してしまう。
「あー、これは掃除をサボってたわけじゃなくて、そのうちやろうと思ってはいたんだけど…ね。」
私の表情に気付いてか、サンジ君が弁解する。
そもそも休んだ私が悪いのに。 何も言えなくて、首を横に振るだけで答えた。
「いや、違う。そんな話をしたいんじゃなくて。」
サンジ君は一呼吸置いてから、部室の真ん中にあるベンチに腰掛ける。
私はドアの所に立ったまま見ていた。
頭の中は、何を言われるんだろうと、それだけ。 いっそ、私のことなんか最低だと責めて怒って欲しい。
覚悟を決めて、両手にグッと力を入れる。
「ナミさん、ごめん!」
突然、頭を下げられて訳がわからす反応が遅れる。
「…何で、サンジ君が謝るの?私が…、私が悪い、のに。」 「俺、知ってたんだ。アイツの気持ち。」 「え…。」
アイツが誰のことかなんて聞き返すほど無神経じゃない。
「伊達に幼なじみやってないからね。 …アイツの気持ちも知ってて、ナミさんが悩んでのも気付いてて、俺は何も言わなかった。 まあ、何でビビちゃんと付き合ってたかは、俺も謎だけど。それもチャンスだと思ってた。」
サンジ君は私を見ずに、どこか記憶を辿るように一点を見つめている。
「アイツの気持ちに気付かないまま、ナミさんが俺のこと見てくれればいいって思ってた。 悪いのは俺、…俺なんだ。」 「……。」 「 手袋を渡された時、アイツに面と向かって宣戦布告されてさ。 すげぇ焦った。負けたく無かったし、俺の方がナミさんのこと大切に出来る。…って思ってたんだけど、結局俺が困らせて悲しい顔させてた。」 「違う!そんなこと…ない。」 「俺、ナミさんの笑った顔が好きなんだ。」
サンジ君が柔らかく微笑む。
私は何も言えなかった。 喉の奥がツンと痛くて、私が泣く資格なんてないと、堪えるので必死だった。
「部活、辞めないよね?」 「辞めないわ。三年生の引退まで後半年だもの。」
笑顔を作ってみたけど、きっとぐしゃぐしゃなひどい顔だったと思う。
ありがとうも、ごめんなさいも、どんなに言ってもキリがない。
慌ただしく始まった三学期はあっという間に2月を向かえる。 月が替わると、新入生の受け入れの準備で学校の空気が少しだけ変わる気がする。
4月になったら、三年生か…。
なんだか信じられない。 自分はずっと高校生で、ずっとここにいるような気がしてた。
時間は確実に流れていく。 何をしても、しなくても。
ルフィにはずっと会っていない。
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