フォール・カラーズ


体育祭の振替休日から明けて、衣替えをした教室。

春と同じ制服に戻っただけなのに、どこか暗くなったような寂しさを感じる。
そんな切なさに浸る余韻もなく、教室中はわいわいガヤガヤとはしゃいでいる。

体育祭が終わると今度は文化祭の準備と2学期は何かと慌ただしい。

今日はホームルームでクラスの出し物を決めていた。
私はと言えば、何故か文化祭の実行委員をやっている。

クラス替えをしたばかりの4月、サンジ君とゾロのケンカの仲裁をしている時に悪目立ちをしてしまって、ちょうどその時教室に入ってきた先生にそのまま勝手に任命されてしまった。
委員は2人なので、先生の独断でサンジ君と私に決まった。

部活と家の手伝いとで時間がなく委員会に入るつもりなんてまるで無かったのに拒否権は無かった。
と言っても、文化祭の期間以外は委員会で呼び出されることもないので効率が良いと言えば良いのかもしれない。



「じゃあ、お前ら片っ端からアイデア出してけ。但し、レディ達の意見を最優先する!」

サンジ君が面倒くさがりながらも、仕切って進めてくれていた。


「お化け屋敷!」
「無理!準備がめんどくさそう。」
「あっ、じゃあ女子によるメイド喫茶!」
「賛成ー。」
「やだー!男子キモーイ。」
「文句ばっか言うなよ。じゃあ、お前らも何か案出せよな。」
「占いは?カップルの相性占いとか、運命の人探し!」
「誰が占うんだよ。インチキくせーな。」



みんな好き勝手にあーだこーだ言って、中々話が前に進まない。

そんな様子を眺めながら、私は1人違うことを考えていた。








今日の昼休み、ルフィは屋上に来なかった。
別に、いつも会う約束をしていたわけじゃない。ただ、私が屋上に行ってルフィがいなかったことが無かったから、少しだけ引っかかっていた。

ルフィは昼休みに屋上でボーッとしたり昼寝するのが幸せだと大袈裟に言っていた。
その時間を今日は何をして過ごしたのだろう?誰と一緒にいたのだろう?









「ナミさんはどう思う?」
「え、えっと…。」


いきなりサンジ君に話を振られて何か適当に返事をしようとはしたが、途中から話をまるで聞いていなくて言葉が出てこない。


「今日いきなりじゃ、やっぱり決まんないか。」
「うん、そうね…。」



出し物決めは来週まで持ち越しになり、ホームルームは終わった。









きっとサンジ君は気づいていた。私が話を聞いていなかったことに。


私、最低だ。
目の前のことすら、ちゃんと出来ないなんて。

最近は何をやってもダメな方向に向かっていくような気がする。
ネガティブになってしまう自分を打ち消すように両頬をピシャリと叩いた。



放課後になって、みんなが帰った後の教室。
1人残って、サンジ君が黒板に書き留めてくれていた内容をノートに書き写していた。
みんなのアイデアと、実現するとしたらどんな準備が必要か。

進んで実行委員になったわけではないが、やるからにきちんとやらないと気が済まない。


気持ちを切り替えてやるべきことに集中しよう。




ふいに外を吹く風が強くなって、カーテンが大きく揺れている。
立ち上がって窓を締めに行くと、校門に向かって歩いていく後ろ姿が見えた。





ルフィとビビ。

楽しそうに話しながら、2人で一緒に帰っていった。









窓を締めてカーテンも締めると途端に教室は薄暗くなった。


「さてと、早く終わらせようっと。」


誰もいない教室では明るい声が虚しく響くだけで、余計に惨めな気持ちが広がってきた。それにも気づかない振りをして、私はノートを書き続けた。














2人が付き合っているという噂を聞いたのは、その2週間後。















文化祭に向けて委員会の打ち合わせが多くなり、近頃は帰りが遅くなることが多かった。
日はすっかり短くなり、外は暗くなっていた。



部活と家の手伝いと委員会と、流石に疲れた。

そんな時に、サンジ君は必ず良いタイミングで提案をしてくれるのだ。

「ナミさん、何か甘いもの欲しくない?」





サンジ君の提案で向かったのは学校近くのカフェ。
私はブルーベリータルトと紅茶を、サンジ君はコーヒーを頼んだ。

サンジ君は自分は甘い物を食べないくせに、私が甘い物を食べたいタイミングをわかってくれる。


「んー、美味しー!」


ブルーベリータルトを口に運んで思わず声が上がる。
サンジ君も何故か嬉しそうに微笑んでいる。あまりにも真っ直ぐ見つめてくるので、少し恥ずかしくて視線を逸らしながら話題を探す。



学校の近くだからか、私達以外にも同じ制服の生徒達が何人かいるみたい。
そんなことを考えている時だった。仕切りを隔てた隣のテーブルから聞きなれた名前が聞こえてきたのは。




「ルフィとビビって付き合ってんの?最近、いつも一緒じゃない?」
「噂は聞くけどね。」
「やっぱり、ルフィもビビかぁ。男子はみんなビビ好きだもんねー。」
「それがビビから告白したらしいよ!」
「うっそ!マジで?」
「意外だよね。中学の時から結構モテてたのにずっと彼氏作らなかったのはそういう訳かぁ。」
「ルフィのこと相当好きだったんだねぇ。」



私は味のしなくなったブルーベリータルトをもぐもぐと作業的に口に詰め込む。
サンジ君は相変わらず自分のペースでコーヒーを飲んでいる。


「そういえば、あの噂になった2年生とは別れたのかな?」
「そうなんじゃない?元々、付き合っていたのかも謎のままだし。」


突然、話の矛先が自分に向かってきて、飲み込もうとした紅茶が喉の奥につっかえてむせてしまった。


「大丈夫?」

サンジ君が差し出してくれた紙ナプキンで口元を抑えて、落ち着いてから残りの紅茶を一気に飲み干した。



「そろそろ帰ろうか?」


帰り道は反対方向なのに、暗いと危ないからと駅まで送ってくれることになった。

サンジ君は「肌寒くなってきたね。」とか部活の予定とか当たり障りない内容で会話を続けてくれる。



サンジ君もあの会話を聞いていたはずだ。
きっと、私が切り出さない限りサンジ君から核心に触れることはない。




駅に着くと、会社帰りの人たちの帰宅時間とも重なっていつもより混雑していた。


「ナミさんちは駅から近いんだっけ?」
「うん、歩いてすぐよ。大丈夫。」
「そっか、なら良かった。でも気をつけてね。」
「ありがとう。サンジ君は優しいね。」


見上げると、笑顔だと思っていた彼は少し切ない表情をしていた。


「俺は、ナミさんの心の隙につけ込もうとしている悪い男だよ。」


いつもと違う大人の男の人に見えたのはその一瞬で、すぐにいつもの笑顔に戻った。


「本当に悪い男なら、そんなこと言わないわ。」
「そうかな?」
「そうよ。おかしなサンジ君。」
「ナミさん、やっと笑ってくれた。あ、そろそろ電車来ちゃうよ。」

サンジ君が電光掲示板を指差す。


「じゃあ、また明日ね。」
「うん、また明日。」


私が改札をくぐるまで、サンジ君はずっと笑顔で手を振って見送ってくれていた。



私はいつまでサンジ君の優しさに甘えているんだろう?


改札を抜けるまではサンジ君のことを考えていたはずなのに、電車の中ではずっとルフィのことを考えていた。




ポケットから取り出した携帯電話には、ルフィからもらった出目金のストラップが能天気にプラプラとぶら下がっている。





本人に聞く勇気も無いくせに、本人に聞くまでは噂に過ぎないと、そう自分に言い聞かせて。




まるで、祈るように携帯電話を握り締めた。


往生際の悪い私。

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