高く澄み渡った文句のない秋晴れ。
予報では午後から天気が崩れるようなことを言っていたけど信じがたいほどだ。
今日は9月最後の日曜日。 高校の体育祭が行われていた。
暦の上では秋といっても、まだまだ暑い。 特に今日は8月のうだるような暑さを取り戻していた。 私は額から流れる汗を拭いながら、グラウンドで走るクラスメイト達に声援を送る。
クラス対抗で優勝すれば、担任の先生の奢りで打ち上げが待っている。 盛り上がらない訳がなかった。
うちのクラスは負けず嫌いのゾロとサンジ君の大活躍で、午前の部だけでも他のクラスよりかなりのリードをしていた。
2年生男子のリレーが終わって、次が午前の部で最後の競技、1年生の混合リレーだ。
ゾロとサンジ君は同じチームのはずなのに、何故かケンカをしながら席に戻ってくる。 仲が良いのか悪いのか。そんなにケンカするなら顔を合わせなければいいのに、というのは最早言っても意味が無い。
1年生の混合リレー出場者達が、クラスごとの座席からグラウンドにぞろぞろと出て行く。
たまたまなのか、無意識の中で探していたのか、自分でもわからないけれど、この人混みの中でしっかりと視線がかち合った。
視線の先の彼は、私を捉えると満面の笑みで手を振ってきた。
「おーい!ナミ、見てろよー!俺が1番になるからなー!」
男の子にしては割と高いルフィの声は、大勢の中でもよく響く。
大声のもとに視線が集中して、一気に注目の的になってしまった。
私がルフィと付き合っているという噂は消えることはなく、更に大きく学校中に広まっていて、あちらこちらから「仲良いね。」だとか「人前で、よく恥ずかしくないね。」等と冷やかしの声も混じって聞こえてくる。
ルフィはこの学校公認カップルのような扱いをどう思っているんだろう。
無視することも、笑顔で手を振り返すこともできず、片手を挙げたものの行き場を失っていた。
「おい、宣戦布告か?テメーはクラス違うだろうが。」
声の方を見上げると、サンジ君が私の隣に立っていた。
ルフィはサンジ君の投げかけに妙に納得して満足そうにゲラゲラ笑うと、集団の列の中に入っていった。
「ありがとう。」 「ん?何が?」
サンジ君のさり気ない優しさに助けられて、すごく感謝もしているのに、少しだけ胸の奥がチクッと痛くなる。
私が本当の気持ちを伝えたとしても、今と変わらず優しくしてくれるんだろうなというずるい考えがチラつく。
こんな自分、すごく嫌いなのに。
1年生が整列してから10分近くは過ぎている。
音響の故障らしく競技がなかなか始まらず、炎天下のグラウンドの真ん中で待たされている生徒達は暑さに耐えかねて、かなりだれてきていた。
そんな中でも特に辛そうに、立っている状態がやっとというようなビビの姿が目にとまった。
明らかに顔色が悪いのに、誰も気づいていないのだろうか。 心なしかフラフラしているようにも見える。
ビビも周りに話しかける様子はなく、じっと耐えている。
それとも、声を出すことすら出来ない状況なんじゃ…。
そう思って立ち上がろうとした時には遅かった。
「ビビ!」
ビビが倒れたのと同時に、誰よりも真っ先に駆け寄ったのはルフィだった。 続いて先生達も慌てて駆け寄る。
ビビは意識はあるみたいで取りあえずは安心した。
ルフィと先生が何かを少し話した後、ルフィはビビを抱き上げて保健室に向かって行った。
友達が具合を悪くしているというのに、抱き上げたことに対してキャーキャー歓声を上げている女の子達がいる。
私は完全に第三者で、その様子を遠くから見ているだけだった。
心の中に広がっていくモヤモヤは一体何なのだろう?
ビビのことが心配?
違う。ただの嫉妬。
私も、歓声を上げている女の子達と何も変わらない。
ルフィとビビ、2人が離れてから少しして、ようやく1年生の混合リレーが始まった。
さっきまで晴れていた空には、気付くと鉛色の雲が広がっていた。
天気予報は当たった。
ぽつぽつと降り出した雨は、競技が終わる頃には本降りに変わっていて、お昼休憩が明けても降り続いていた。
結局、運動会はそのまま中止となってしまった。
生徒も先生も一斉に慌ただしく片付け始めて撤収していった。
ルフィとビビが保健室から戻ってくることは無かった。
体調の悪い友達の付き添いをした、ただそれだけのこと。
何度も何度も自分に言い聞かせている。
それなのに苛立つような焦燥感が抑えられない。
雨に濡れて、頬に張り付く髪がやけに鬱陶しい。
そういえばと、朝の天気予報の続きを思い出した。
今日の雨を境に、気温はグッと下がって秋めいてくると。
いつも、季節の変わり目は少しだけ寂しくなる。
秋は、あんまり好きじゃない。
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