夜中に、ふいに目が覚めた。 多分あたりが真っ暗だったからそう判断したのだけど、時計は確認していないから実際何時だったのかはわからない。 目を開けて、心臓が止まるかと思った。 誰もいないはずの部屋、暗闇の中、目の前で蠢く人影を見つけたからだ。 でも驚いたのは一瞬で、すぐに正体は判明した。こんなことをするヤツは一人しかいない。 枕の横が沈んでいるのは、きっと両の手が置かれているからで、体の身動きが取れないのはお腹の上に跨がれているからだろう。 「寝込みを襲うなんて、いい度胸してるわね。」 人影は答えない。 「夜這いでもしに来たの?…ルフィ。」 暗がりの中、多分目があるであろう場所を見つめながら言った。割りと明るく、ふざけた調子で。 「心配で、様子。見に来た。」 「だったら、もうちょっと時間考えてよ。心臓に悪いんだから。それに、チョッパーも言ってたでしょ?もう大丈夫だって。」 「うん、聞いた。でも、もしかしたら、」 ルフィは、辿々しく言葉を探すように音を発する。 どんな顔で言っているのかわからないけれど、声は震えてはいなかったことに安心した。 手を伸ばすと、ちょうどいい位置にあったルフィの頭を抱え込んで私の胸に押し付けた。母親が小さい子供を寝かし付けるかのように、背中を擦る。 「…ごめんね。」 心配かけて、ごめん。 何となく口をついて出た言葉はそれだった。 私の言葉を聞いた途端、ルフィはいきなり上体を起こして、逆に私を抱き込むように体勢を変えた。背中に回された腕は少し痛くて、少し窮屈だ。 ルフィの腕の中で、落ち着きのいい場所を探して頭を置き直す。深呼吸をすると、お風呂上がりの石鹸の香りがした。 「…俺の仲間やめるなんて、もう二度と言うな。嘘でも聞きたくねぇ。」 そうか、ルフィはそれが心配だったんだ。 もし、また私がいなくなったらって、それが心配で来たの? こんな夜中に? 少し不謹慎だけど、まるで怖い夢を見た子供みたいだ、そう思ったら可愛くて愛しくなった。 「ごめんね。」 心配かけてごめん、じゃなくて 不安にさせてごめん、だ。 ─シキの下で航海士を続けます。 例え嘘でも、その言葉を口にした時、心がちぎれそうに痛かった。 その言葉がルフィを深く傷付けることをわかっていたから。 ごめんねごめんね、ルフィごめんね。 バカみたいに心の中で繰り返す。 私がこの船を降りて、海賊を続ける意味なんかない。 そう言いたいのに、胸が苦しくなって言葉にできない。 「この船の航海士はお前だけだ。これから先もずっと。」 「…うん。」 抱き締めてくれる温かい腕も、その言葉も力強いものなのに、 「泣いてるの?」 何故だかそう思ったんだ。 「…泣いてねェ。」 「そう。」 トクン、トクン、と規則正しく動くルフィの心臓の音が子守唄のように優しく響く。 「ルフィ、おやすみ。」 「うん、おやすみ。」 広くないベッドの中で、ふたり小さく丸くなって朝焼けを待った。 そばにいるのに寂しくて、 少し切なくて、 幸せな夜。 悪くないと思った。 |