地元から離れた大学に通うことになって、元々人見知りの僕はなかなか友人ができなかった。
 そんな僕に話しかけてきたのは、学内で一番かっこいいとよく噂に聞く、春樹だった。
 大学生になって回りはみんな脱色するのにしなかった彼。
 茶色の頭の中に一人黒の彼はすごく目立っていた。
 もちろん、いい意味で。
 その点僕はどうだ。
 地元の友達に勧められて赤がかった茶色に染めたはいいものの、この性格だ。
 そのギャップに悪い意味で目立っていた。
 だから春樹に話しかけられたときはきっと罰ゲームだと疑ってかかっていた。
 しかし、実際はそんな感じは一欠片も見せなかった。
 ただ単に僕をからかいたかったみたいだ。

『君さぁ、どうして髪染めちゃったの?』

 緊張してどう言えばいいかわからない僕に春樹はめげずに話しかける。

『地元、ここら辺?』

 その質問にようやっと僕は首を横に振る。
 それが面白かったのか、笑ってまた質問をしてくる。

『何でいっつも一人なの?』

 ……僕、人見知りなんです。
 ボソボソつぶやくと春樹は軽く息をついて返してきた。

『そう、じゃあ俺がお前の一番最初の友達ってことで、酒本春樹。よろしく』

 天宮将希です。よろしくお願いします。
 びっくりした。まさかそんなことを言ってくれるとは露ほども思わなかったから。
 だから僕はおずおずと自己紹介をそう言って、差し出された手をこれまたおずおずと握り返した。
 それから、僕はすごいことを彼に言われた。

『それじゃ、その髪の色変えようか』

 繋いだ手をグイッと引かれ、立たされる。
 そのまま僕は美容院に連れていかれて、黒に染め直された。
 お金は全部春樹が出してくれたっけ。
 春樹は黒くなった僕の髪を見て笑って言ってた。

『うん……やっぱ似合うよ』

 イケメンにそんなことを言われたら照れないわけがない。
 僕は真っ赤になってありがとうと呟いた。


 一ヶ月後、大学祭が開かれた。
 特にサークルや同好会といったものに入ってなかったから借り出されたりとか慌ただしかったりなんてことはなかったけれど、春樹のことがますます広がって、両手に花どころかあたり一面に花。
 春樹も困ってるのか嬉しいのかわからない表情をしていた。
 そんな顔もかっこいい春樹。
 僕はズキズキと胸が痛んだけど、これはモテる春樹に嫉妬してるんだと勘違いしていた。
 二日間行われるお祭りは一般の方や高校生、中学生などであふれかえっている。
 僕も出店を回って、いろいろ食べたりゲームをした。
 春樹はいなかった。
 今日も今日とて女の子にかこまれる春樹を見ているのがなんだか辛くなっちゃって、そっと離れてきてしまった。
 昼も越えて歩き疲れた僕は広場の椅子に座り、買った物をモヒモヒと食べていた。
 もうすぐ目の前の特設ステージでライブが始まるらしい。
 その準備をキョロキョロと見ていたら、僕の顔に降り注いでいた太陽の光が遮られた。
 その方を見ると、
 ……酒本……

『天宮、勝手にどっか行くなよな。超探しちゃったじゃん』

 探してたんだ。僕を……
 そう思った瞬間、胸の痛みはスウッと消えてしまった。

『あー!!腹減った。それくれよ。探させた詫びな』

 春樹は僕の食べていたホットドッグを取り上げるとガツガツと食べた。それからたこ焼き、焼きそば。
 しまいには僕が楽しみにしていたクレープまで持っていかれそうになって、少し情けない声を出したら、笑って返してくれた。
 それを食べていたら春樹が提案してきた。

『なぁ、今日さぁ、俺ん家来ねぇ?』

 酒本ん家……?

『そう、俺と天宮の二人だけ』

 二人だけで……?
 僕の心はぐらぐらと揺れていた。
 酒本の家に行ってみたい気もするけど、なんだか怖い。
 行ったら、この気持ちに気づいてしまうかもしれない。
 でも僕の口はゆっくり動いた。
 行きたい。

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