2
コール音が7回ぐらい鳴ったところで原田は電話に出た。
前じゃすぐに出てたのによぉ。
「あ?原田?…俺、牧野。今から俺ん家来れねぇ?」
『今から?……ちょ、……ぱい……………ごめん。今からは無理かも』
向こうから漏れ聞こえた声。
原田が呼んだ、先輩……
俺は頭がグワングワンと揺れているような幻覚に陥った。
そして、感情のままに叫ぶ。
「てめぇ!!今誰といるんだ!?どこにいる!?」
『………』
原田はなにも言わない。
その事にも怒りを感じて問い詰めようとしたとき、電話の向こうからある音が聞こえてきた。
この音は、あのファミレスの呼び出し音だ。
「……ってめぇ、ちょっとそこで待ってろ」
何でこんなに怒ってんのか。
そんなことわかってるつもりだ。
だが、認めたくねぇ。認められねぇ。
そんなことをぐるぐる考えていたくせに、俺は急いで例のファミレスまで走った。
あいつは思った通り、いつものファミレスで窓そばの席にいた。
そして、横には、先輩。白河だった。
俺はファミレスに乗り込んで、二人の前に立つ。
「お前、なにやってんの?」
二人はなにも知らない人から見たらただの中のいい先輩と後輩かもしれないが、俺からしたらこれはそう見ることができない。
どうしても、半年前のあの新聞の記事が頭をよぎる。
すると、白河が話しかけてきた。
「まずは座ろうか。ずっと立っていたら不審がられるよ」
物腰の柔らかい話し方にさらにイライラが募る。
しかし、チラチラとこちらを見る視線があるのは事実。
俺は二人の向かいの席に座る。
原田は少し眉を潜めると、ケータイを取り出してなにかを見始めた。
「おい、原田……」
「……何?牧野話あるんだろ?早く言えよ」
原田はケータイから目を離さずに言う。
それに対して白河がまぁまぁ、と声をかけるが原田の態度は変わらない。
仕方がないので俺は話を進めた。
「てめぇ、ここで何してた。最近電話にも出ねぇしよぉ」
「何してたって…先輩とご飯食べてただけだよ。何?説教?ウケる」
原田の言葉に既視感を覚える。
そして、原田はさらに言葉を続ける。
「って言うか、牧野俺と仕方なく付き合ってくれてたんだろ?もういいよ。別れて」
―――って言うか、俺はお前からコクられて仕方なく付き合ってんの。だから、別れてもいいんだぜ?
耳に入ってくるのは確かに原田の声。
しかし、副音声のように違う言葉が頭に流れ込んでくる。
「話はそれだけ?じゃあ、俺もう店出たいんだけど……先輩、行きましょ」
「ちょっと、待てよ!!そんな……待てって!!」
伝票を持って立ち上がった原田の腕をつかむ。
どうにか座らせようとするが、原田は俺の腕を払った。
「こういう人のこと、何て言うんだっけ……」
―――お前みたいにとやかく言うやつのこと、何て言うんだっけ?
再び副音声が流れる。
原田の口がゆっくり動く。
「あぁ、そうだ。……ウザい」
―――ウザいって言うんだよ!!
目の前がブラックアウトしたみたいになる。
これまで俺の頭ん中巡っていたのは、あの日俺があいつに言った言葉だ。
口の中が乾いてうまく言葉がでない。
原田が白河に声をかけてレジに向かう。
その後ろ姿を見ていることしかできない俺。
そんな俺に白河は言った。
「自分のこと棚にあげていざ相手が浮気したら責めるなんて、調子良すぎだよね」
グサリと刺さった言葉。
まったく、その通りだ。
俺は浮かしていた腰を椅子に沈めた。
前の道路を原田と白河が笑いながら通っていく。
あのとき、原田は何か言ってたか?
ひどい言葉を浴びせた俺に、何か言わなかったか?
しばらく目を閉じて思い出す。
あいつは少し悲しそうに、しかし笑ってこう言った。
「……ごめん、……」
好きだったのに大切にできなくて?
ひどいことを繰り返したのに謝らなくて?
いろいろな理由が浮かんできたが、それらはすべてこの気持ちと少しずれている。
気持ちを表す言葉がでなくて、苦しくて、悲しくて、俺は静かに泣いた。
END
――――――――――
自分のふがいなさに私も泣きそう。
大変申し訳ないです。
イメージはリクエストをいただいたときから出来てたんですが如何せん、時間がなく……なんて言い訳はできませんね。
侑咲様のみお持ち帰りしていただけます。