最初で最後のラブレター

 教室から出た僕は、玄関には向かわず図書室の方へ足を向けた。
 廊下にはまだ人がたくさんいて、鞄を持って歩く僕を奇異な目で見てくる。
 しかし、僕はそんなこと構いもせず、ずんずんと足を前に進めていく。
 その動きはどんどんとはやくなり、目的地につく頃には少々息が切れるほどのスピードになっていた。

 その目的地とは、正確には図書室ではない。
 その、図書室の一角にある司書待機室である。
 ここには司書と呼ばれる学校の図書室を預かる学芸員が駐屯しており、雑誌や資料の保管室としても使われている。
 なんでそんなところに僕が来たのかというと……

「……丸穂くん、今日はどうしたの?」

 僕の相談相手の鞍馬さんに会うためだ。
 鞍馬さんは奥の陳列棚からヒョコッと顔を出して、僕だとわかると近寄ってきてくれた。
 背中の中ごろまで伸ばされている黒い髪は一つにまとめられて左右に揺れている。
 女性らしい柔らかい雰囲気はとても安心感があって――

「……っ鞍馬さん!!……僕、もう……!!」

 学校で唯一信頼できる鞍馬さんに会えて緊張が解けたのか、僕は抑えきれない感情とともに涙を流して顔を横に振った。
 そんな僕を見て鞍馬さんは思うところがあったのだろう。
 僕の背を押して奥のスペースに招いてくれた。

「……丸穂くん、どうしたの?こんなに泣いて……」

「僕、もう……彰文くんに嫌われたくないよ……でも、僕には何も出来ないんだ。どうすることも、何をしても、彰文くんが僕をまた見てくれることなんて……」

「そう……苦しいね……どうすることも出来ないなんて……」

 鞍馬さんはそう言うと僕に温かいココアを淹れてくれた。
 でも、なんだか飲む気にはなれなくてその水面を何の気なしに眺めていた。

「でもさぁ、彰文くんって丸穂くんのこと好きだったんでしょ?だから告ってきたんだよね?」

「うん……でも、よく考えたらうまく行きすぎだったんだよね。クラスの人気者で僕がずっと片想いしてた彼が告白してきてくれるなんて……」

 僕はあの日のことを思い出してみた。
 放課後に呼び出されて、なんだろうと不安に思いながら行ったあの日のことを……

「きっと、罰ゲームだったんだよ。それで、もうその期間が終わったから、僕と一緒にいる必要なくなっちゃったんだ」

「うーん……それだったらもう別れを告げられてるんじゃないの?でも、そんなこと言われてないんでしょ?」

 鞍馬さんの言葉にゆっくりと頷く。
 確かに、ひどいことばっかりしてくるのに別れは告げられてない。
 なんでだろう……

「あのさぁ、」

「はい?」

「相手の気持ちがわかんないときは、自分の気持ちを伝えてみたら?……って何かの本に書いてあった気がする」

 最初は真剣に、最後はちょっと崩した言い方をした鞍馬さん。
 それだけ言うと照れ臭そうに司書待機室を出ていってしまった。

「……自分の、気持ち」

 僕の気持ち……僕の気持ちは――


鈴木くんへ

 突然のお手紙をお許しください。
 鈴木くんにどうしても伝えたかったことがあったのですが、直接あって話すことがはばかれたため、このような形にしました。
 僕が鈴木くんに一番最初に伝えたいことは、感謝です。
 今まで仲良くしてくれてありがとうございました。
 鈴木くんと一緒にいれて、すっごく楽しかったです。
 鈴木くんから気持ちを伝えられたときはすごくびっくりしてしまいました。
 なぜなら、僕は鈴木くんのことが好きだったから。
 今は、ぼくのことなんとも思ってない。大嫌いなのかもしれない。
 けど、それは仕方がないことだと思う。
 だって僕みたいに地味で全然面白くない人と彰文くんみたいに明るくて人気者が好きあっていられるわけないから。
 だから、僕と別れてあげてください。
 彰文くんから聞きたかったけど、それを僕に直接言うのも嫌なんだろうなって思ったから、いまここでお別れとしましょう。
 今まで、不愉快な思いをさせてごめんなさい。
 本当にありがとうございました。
 一瞬でも、鈴木くんに好きでいてもらえて嬉しかった。
 今度はもっと可愛い子と幸せになってください。



田村


 僕の思いを伝えるために、最初で最後のラブレターを書きます。



END
――――――――――
まだまだ続くんじゃないかな……

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