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すごいね。書道の事はよく分からないけど、これ書いた人はきっと優しい人なんだな――
この学校はおかしい。
笑い話ではないが、おかしいとしか言いようがないのだ。
なぜなら、少しばかり見目の良い者の容姿に惑わされ偽りの信仰を捧げる。
そうではない者は邪魔でしかない。
おかしいことだが、その見方を変えることは難しい。
よって今日も邪魔者排除に精を出す生徒が後を絶たない。
カチャリと生徒会室の扉が開いた。
書類からそっちに目を移すと、書記の片野が立っていた。
「……酒谷会長、」
「…………片野、どうしたんだよ。それ…」
「えっと、その…池に、誤って、落ちてしまいまして……」
片野はずぶ濡れだった。
今は12月も半ばの寒い時期だ。
このままだと確実に風邪を引いてしまう。
それではダメだと中に入れようとするが部屋が濡れると聞かないので、タオルを渡すことにした。
片野は軽く髪の毛を拭くと、タオルは洗って返すと言って、帰っていった。
廊下にはポツポツと水が垂れていた。
さっきまで立っていた場所には水溜まりができている。
俺は去っていくその後ろ姿を見ながら歯がゆい思いでいっぱいになった。
気づいている。片野が生徒からいじめられているのを……
その原因は自分にあることも……
先日、学校内で行われた生徒の芸術作品の展示会の席で俺は片野の作品――書道作品であったがなんて書いてあるかはよく分からなかった――を見て、分からないなりにもそれがどれだけ素晴らしいものか感じた。
なんと言ったか忘れたが、その言葉を聞いた一般生徒から噂として流れ、いつしか片野を排除する働きに勢いをつけてしまった。
元々片野は容姿がよろしくない。それに大人しく人付き合いも悪いので、俺という信仰対象の周りにいるということで目を付けられていたのだ。
それによりさっきのような仕打ちを受けていた。
池に誤って落ちたというのも真実ではないだろう。
今の俺に出来ることはただ、片野の明日を願うことだけだった。
次の日、案の定片野は風邪を引き休んだ。
そして3日経った今日、やっと片野が学校に登校したのだが、姿が見えない。
学校に来た日は必ず生徒会室に顔を出すのに……
少し不安になったので、仕事を副会長の吉野に頼み校内を回った。
片野の寄りそうな場所という場所を探し、無事でいることを願った。
が、願い虚しく、片野はどこにもいなかった。
入れ違いになりもう生徒会室にいるのではないかと思い吉野に電話をいれるがまだ来ていないと言われてしまった。
もう、頭の中は最悪なイメージしかない。
リンチの行われやすい場所を重点的に見て回った。
最悪の場合も考えて、車が出せるような手配も頼んだ。
あとは、片野を見つけるだけだった。