その先に僕はいますか

 丸穂、丸穂と愛でるように呼んでくれた彼は、今はもうそのように僕の名前を呼ぶことも少なくなって、いつの間にか他人のような態度になった。
 元々は他人なのだから仕方がないのかも知れないが、悲しくないといったら嘘になるだろう。
 彼は今日も僕の名前を悪口にのせて呼ぶ。

――――――――――
 元々、僕と彼が付き合うのは不可能なのだ。
 地味な僕とクラスの中心の彼が付き合うのは不可能なのだ。

 今日も彼は友達と楽しそうに笑っている。
 じっと見つめてしまうとまた彼にひどいことを言われてしまうので、ちらりちらりと伺いながら見る。
 そのせいか、さっきから読んでいる本のページが進まない。

 また、ちらりと彼を見る。
 彼と目があった。

 彼は心底嫌そうな顔をして近くにいた友達になにかを話した。
 そしてその友達が僕の方にやって来た。
 僕はギュッと本の端を握ると顔をうつむけた。

「そんな目でぇ、彰文のこと見んといてぇ。マジキモいから」

「そうそう、ってか何で学校来てるわけ?なんかさぁ、空気悪くなるじゃん?もう良くね?来なくても」

 彼の友達が続々と僕の回りに集まる。
 その口から様々な言葉が漏れる。
 彼は遠くから僕を眺めているだけだった。
 それも少しの間で、あっという間に女の子達に囲まれて、なにかを話し出した。
 一人の女の子が彼に腕を回すと他の子も負けじと彼に触れていく。
 仕方がない。
 彼はかっこいいんだから。
 でも、見たくなかった。
 僕は席を立つ。今はまだお昼休みだ。

「そうだね。帰るよ」

 パタンと本を閉じて机にかかっていた鞄を掴むと、じゃあね。と彼らに呟いて、教室を後にする。
 彼はもう一片ほども僕を見ない。
 時々、君の目に僕が写っているのか分からなくなるときがある。
 いやでも、写っているのだとおもう。
 それは決して以前のように愛でる対象としてではなく、侮蔑と嫌悪に彩られた物として。

 そんな物として見られるくらいなら写らない方が楽なのかもしれない。
 けれど、彼の目に写っているという事実が、それを拒む。


 もう僕に出来ることはないのだから。


 あなたの先に"僕"はいますか。


END
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きっと続く。

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