2
誰かに呼ばれた気がした。
幻聴まで聞こえてきやがったか……
「永久……永久!!待てよ」
幻聴じゃない。鷹の声が聞こえた。
「……なんで…ゴホッ、ゴホッ……」
振り返ると彼が走ってくるのが見えた。
期待に勝手に体が喜ぶ。
でも脳みそが信じない。
動かない体を無理矢理動かす。
膝がガクガクして、うまく力が入らない。
視界がだんだんぼやけて、膝から崩れた。
呼吸をする度に気管支に激痛が走る。
俺、風邪で死ぬのかな……
鷹の声が近くから聞こえる。
あいつが俺の名前を呼んでる。
「うるせーよ……バカ……」
痛みも感じなくなっていた。
それから、完全に視界は真っ暗になった。
――――――――――
意識がフッとあがる。
固まったまぶたを開くと一瞬すごい光が入ってきて目を閉じる。
だんだん他の機能も動き出したようで、足音やテレビの音が聞こえだした。
光に慣れた目をゆっくり開けると白い天井。
ここは、病院?
肺らへんから喉までが息をする度に痛む。
痛むと言うことは、俺は生きているわけで、倒れたのは覚えてるから、誰かに病院までかつぎ込まれたというわけで………
なんか恥ずかしい。
きっと大騒ぎになっただろう。
もう町ん中歩けねぇよ……
布団に投げ出された左手が動かない。
右手には点滴が刺さってるから怖くて動かせないけど、わりと体が動かせることがわかってきたからとにかく水が欲しかった。
左手を延ばせば届く位置にコップが置いてあるが肝心の左手が動かない。
見たら、あいつが俺の手をガッチリつかんだままベットに伏せっている。
ゆっくり手を動かして掴まれた手をほどこうとしたら、さらに掴まれた。
「おい、バカ。放せよ」
言葉にしようにも喉からからで引っ付いてるし、痛すぎて声になってるかどうかもわからない。
「嫌だ」
しかし、ちゃんと聞こえたらしい。
俺はただ水がほしいだけだってのに……
「水、手ぇ放せ、水飲みてぇの」
言葉の意味が分かったようで、コップを取るが左手はまだ放してくれない。
右手で飲めってか?
「ほら、飲めよ」
と思ったら、コップを口につけられた。
水は半分ぐらいしか入ってなかったおかげで溢れるようなことはなかったけど物足りなかった。
大分楽にはなった。
「ったく、こんなことで許すわけねーのに……手ぇ放したのはお前からだろ?」
まぶたを閉じて、ふーと息をはく。
あいつの顔をなんだか見れない。
「俺は放してねぇよ」
「俺の目の前で浮気くりかえして、家にばんばん連れ込んだクセにまだ俺を苦しめてぇのかよ」
なんだか泣けてきた。
こんな惨めな顔さらしたくないのに両手が動かせないとかどんだけ笑える。