俺の恋人は最悪なやつだ。
 恋人の俺がいるのにも関わらず、女を連れ込んでヤることやってたりした。
 俺はそれにただただ耐えてた。
 音が聞こえようと、裸のあいつが部屋から相手を送っていても。
 でも、もう耐えられない。
 いつまで耐えたらあいつは俺を見てくれる。
 いつまで耐えたらあいつは俺だけになる。

―――――――――


 一週間前ぐらいに、部屋から聞こえてくる声にどうしても部屋に入る気が起きなくて、自宅のマンションの地下駐車場で4時間ぐらいいたことがある。
 このくそ寒ぃ中
 自分でも、何やってんだろって思った。
 それから風邪にかかり、何だかんだ病院にいく暇がなく、熱も上がらないから大学もバイトも休むに休めず。
 季節柄、インフルエンザかなとも思ったが節々の痛みもないし、咳しかでねえ。
 バイト先の店長も休めと言ってくれたが、いざ休んだとして、部屋にいるときにあいつが女を連れ込んだりしたら逆に悪化しそうだったので、好意だけ受け取った。
 バイトが飲食関係じゃなくて本当に良かった。

 バイトの休憩時間
 止まらない咳に体力奪われて、ぐったりするとフッと浮かんだことがあった。

 あいつは俺が風邪引いてんの知ってんのかな……

 考えたら涙が出てきた。
 それに気づいた杉山ちゃんには咳のせいってことにしておいた。

 その夜、明日は必ず病院に行こうと思いながらふらふらな体を無理矢理動かして部屋まで行った。

「ただぃ、ま………」

 自分の目が良いことをこれだけ悔やんだことはない。
 あいつが、鷹が、女を部屋に入れていた。
 不意に今日の昼、休憩時間に浮かんだことがまた浮かんで来た。

 あいつは、もう俺のこと………

 涙が流れた。もう耐えられない。
 意を決して鷹の部屋のドアを開ける。
 案の定、絡み合う男女の姿が……
 目を逸らしたくなったが、これで最後だと言い聞かせた。
 俺に気づいた鷹がめんどくさそうにこっちを見る。
 女の人も当たり前かのように鷹のとなりを占拠している。

「んだよ。永久、なんかあんのかよ」

「………別れる」

「はぁ?なんつった?お前ぜぇぜぇ言い過ぎ、走ってきたの?」

 鷹の言葉に気づいてしまった。
 鷹は俺が風邪引いてることも気づいてない。
 さっきまではふらふらだったクセに、体はものすごく素早く動いて鷹のいるベットに乗り上げる。
 何か女の人が言ってるみたいだけどよく聞こえない。

 あいつの肩に両手をおいて、口を耳元に寄せる。
 聞こえないと言ったお前のためだ。
 最後に行ってやるよ。
 俺の今の気持ち…………

「バィバィ」

 そのまま踵を返すと、真冬の外へ駆けた。

「おい、待てよ!!待てって!!永久……」

 後ろから鷹の声が聞こえてきたが無視してやった。
 マンションからも飛び出して行くあてもなく歩いていく。
 今まで気持ちが高ぶっていたようだ。
 対した距離を歩いていないのに息がきれる。
 寒空に白い息がほどけるように消えていく。
 目の奥がキリキリして熱いものが込み上げてきた。

 一際大きく息を吸い込む。
 気管支がヒューとなった。
 ヤバい、と思ったら咳が大量に出てきた。

「ゲホッ…ゴホッ、ゴホッ………」

 今のご時世インフルエンザが流行ってるせいで、回りを歩く人たちは俺がすごい咳をしているのを白い目で見ながら口元をおさえて早足で歩いていく。
 ぜぇぜぇが止まらない。
 冷たい電信柱に手をついて息を整える。
 だけど、深呼吸する度に咳がぶり返し、無限ループに陥ってるみたいだ。

「ゲホ、ゴホッ……」

 止まらない咳についには口の中が血の味でいっぱいになった。
 前にもこんなことがあったからちょっと楽観視していたら、大きな咳が出て、あわてて口を押さえた。
 その手には血がついてた。

「………まじかッ、ゴホッ、ゴホッ」

 ひとまず家から離れなければ……
 ちょうど保険証も診察券もポケットに入ってる財布の中にある。
 歩いていけない距離でもないけど、今の体力で行けるかどうか……
 離れたところでタクシーでも拾おう。

 電信柱から手を放し、ふらふらと歩く。


<< back >>


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -