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誘って来たのは、あいつの妹からだった。
それに乗ったのは俺。
誘われるままに、あいつの部屋に入って、あいつの妹にまたがった。
そのあとからはよく覚えていない。
いつも通りにあいつは俺のもとに帰ってくるんだと思ってたんだよ。
――――――――
「お兄ちゃん遅いね?もう帰ってきてもいい頃なんだけど?」
あいつ――珠稀――の妹の章羽はソファーにいる俺のとなりに座ると頭を俺に預けてそんなことを言った。
こいつを見るたびに女の強かさを目の当たりにしている。
兄の恋人だと知っていて俺に関係を持ちかけ、あいつが気づくのを期待してか俺を煽っているつもりなのか、布の面積の小さい服しか着ていない。
「ってかさぁ、出てっちゃったのかな?」
「……はぁ?」
「ほら、あたしと真城がエッチしてるとこ見ちゃってたりして。まぁ、あたしは別にいいんだけどねぇ」
あいつの妹は俺の腕にすりより笑った。
まさか、と思った。
俺は今まで両の指以上はあいつに現場を見られてる。
それでも俺のところにいたんだ。
そんなこと、起こるわけ……ない。
決して離れることはない。
そんなこと必ずないとは言い切れないのに俺は何を傲っていたのだろう。
俺は何を思っていたのだろう。
深夜近く。
あいつはまだ、帰ってこない。
あいつの妹はあいつと別れて自分と付き合えと言ってくる。
あいつより満足できるらしい。
嘘だろ。お前みたいな女……
いい加減どうしようかと思っていたら、チャイムがなった。
あいつが帰ってきたんだと思い、玄関に行く。
あいつの妹はまだ俺に引っ付いている。
振りほどいて扉を開ける。
「おい、てめぇ!!…………」
「兄に向かっててめぇとは、どういうことだ」
そこに立っていたのはあいつではなく、俺の兄貴の衛だった。
「兄貴……なんで……」
一瞬すごく静かになった。
そんなところに章羽が乱入してきた。
場が荒れるのは必然のように思えた。
「真城ーこの人誰?」
「……俺の兄貴」
「…え?お兄さん?嘘!!私、どんな格好して」
章羽は混乱させるだけさせて部屋の奥に行ってしまった。
兄貴はそんな章羽を一見して、鋭い目付きで俺を見た。
すべてを悟った目だった。
「真城、もう珠稀君は帰ってこない」
兄貴は滅多なことでは怒らない。
そんな兄貴が眉間にしわを寄せて俺を見ている。
だが、そんなことより兄貴が言ったことが理解できなかった。
「な、何言って……」
喉がカラカラで声がでない。
そんな俺に兄貴は追い討ちをかけてきた。
「だから、もうお前のもとに珠稀君は帰ってこないってことだよ」
「嘘だろ?なんで兄貴がそんなこと……」
「まぁ、お前はあの子と楽しんでたみたいじゃねぇか。この際乗り換えたら?」
「……悪ふざけにも程があるだろ」
「悪ふざけだと思ってんならそれでいい。じゃあな、それが言いたかっただけだから」
兄貴はそういうと去っていった。
俺はその背中を睨み付けることしかできなかった。
珠稀は帰ってくる。
それは確信ではなく願いだった。
――――――――――
中村兄貴の言ったことが悪ふざけでも何でもないことを知ったのは、その日から1週間ほどたった頃だった。
あいつの妹からあいつが家に帰ってこないと連絡があった。
嫌な想像が頭の中を駆け巡った。
落としそうになったケータイを握り直して兄貴のもとに走った。
俺の知ってる奴であいつの居場所を知っているのは兄貴しか考えられなかった。
一週間前のあの夜のことが頭をめぐった。
――――――――――
兄貴のマンションが見えた。
平日だし、どの時間に帰ってるか分からないが今すぐ会いたかった。
絶対に会いたかった。
階段をかけ上がってドアの前まで言ってチャイムを鳴らす。
『……はい』
女の人の声だった。
兄貴の嫁――義姉さん――
「えっ…あの、真城です。兄貴いますか?」
『…あら、真城君?衛さん…真城君……』
義姉さんの声が遠くなり、玄関に近づく足音がした。
「……なんだ」
「兄貴、珠稀、珠稀はどこだよ!!」
「それを聞いてどうするんだ?珠稀君がお前のところに戻るとは到底思えないがな」
「それは……」