詩舟は本当に玄関にいた。
 まだ俺には気が付いてないようでケータイをカチカチしている。
 きっとゲームかメールでもしてるんだろう。

「詩舟……」

 俺が呼ぶとガバッとこっちを見た。

「……桂、メール返」

「別れたってどういうことだよ……」

 単刀直入過ぎたか……
 でも今はそんなことじゃない。

「……えっ、な、なんか、オレよりい、い男見つけたみ、たい」

 さっきまで俺を見ていた顔は声と共に下を向いてしまった。

「詩舟はそれでいいのかよ………お前、好きなんだろ?熊坂さんのこと」

「し、仕方がないだろ。……ってか桂、人の恋愛で熱くなりすぎ」

 こっちこそ仕方がねえだろ………男の俺はノンケの詩舟を幸せには出来ないんだから。
 だからせめて、真っ当に誰か可愛い子と付き合って、詩舟が幸せならそれでよかったのに…………
 自分の好きな子のことなんだ、そりゃ、熱くなるだろ…

「………もう、いいよ。ごめんな。そんなこと聞いて………お前がそれでいいなら別にいいよ」

 俺は靴を履き替えると、早々に玄関を出て行く。
 今、詩舟と一緒に帰ってもイライラしちまう。
 だから、聞こえなかった。
 詩舟の声なんて………

 歩いていたら段々頭が冷えてきた。
 あーー何怒ってんだよ!!!
 なんで怒ったんだよ!!!俺………
 でも、これでよかったのかもな……
 これで近付けない。
 触れられない。
 気付かれない。
 これでよかったんだよ。

 だから、早く納得してくれよ。俺…


 あれから数日。
 俺たちの関係はちょっとづつ変わっていった。
 まず、俺
 極力詩舟とは喋らなくなった。
 前は休み時間ほとんど詩舟のところに行って何かしら話をしていたのに、今は一日に一回しゃべるかしゃべらないかだ。
 次に詩舟
 目に見える会話の減少にともない、何故かよく俺を見ている。
 見ていて俺と目があった瞬間に逸らされる。
 前はあってもおどけてくれたり笑ってくれたりしてたのに。

 俺の心臓はまだ納得してくれず、視線を逸らされる度に痛くなる。
 なんか、超未練たらしい……
 授業があと2,3分で始まる。
 準備のできてる机に突っ伏し、誰にも気づかれないようにため息をつく。

「………なあ、」

 机の前に誰か来た。
 誰かって言っても、声だけで分かるんだけどな……

「どうした?詩舟」

「……あのさ、今日桂の家行っていい?」

 何で今日なんだと嘆きたくなった。
 前だったら喜んで快諾していたものの、今日はダメだ。
 なんたって、今日の橋立家は俺以外みんな外に出払ってる。
 両親は結婚記念の二泊三日旅行中で姉貴は仕事の出張で今海外だ。
 今の俺が誰もいない家で詩舟と過ごしたら何仕出かすかわからない。

「今日、はちょっと……」

 はっきり言えない自分が憎い。

「すぐに終わるから!!」

 ちょっと話したいだけだから。
 そう言った詩舟。
 今回は目があっても逸らされないが、なんだか詩舟の目が潤んでてドキッとしたせいで俺の方が逸らしてしまった。

「ったく、分かったよ。部活終わったらバスケ部の部室に来いな」

「…わかった」

 詩舟が笑った気がした。


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