「はぁ……でも近付かなきゃいけねぇもんなぁ」

 テスト返しから一週間、あのときと同じように机に覆い被さって、机の右側に置いてあるカバンに目をやる。
 そこには毎回詩舟に貸しているマンガの単行本が入っている。

 貸してやんなきゃなぁ………
 いつ行こうか………

 俺は大きく息を吐いて更に机に突っ伏した。

「ちょっと桂!!!!」

「わっ!………なんだよ。びびった……」

 悩んでいたら詩舟からきた。
 手にはカモフラージュ(?)用の袋に入ったマンガがあった。

「最新巻買ったって昨日メールしといて、なんで貸しに来ないんだよ!!!」

「別に詩舟が来ればいいじゃん。…………はい、最新巻」

 俺がカバンをゴソゴソし始めると詩舟は静かになった。

「サンキュー……はい、これ借りてたやつ」

「おうおう……ん、OK」

 詩舟は自分の席にそそくさと帰っていき、もうマンガを読み始めてる。
 おいおい………詩舟の中の俺ってもしかしてマンガより下……?
 俺はその袋ごとカバンにいれるためにそれを持ち直す。
 指先がふっくらと膨れたところに触れた。
 決してマンガではない。

「ん………んだこれ……チョコレート?」

 その袋にはマンガの他にチョコレートも入っていた。
 お礼のつもりか?
 ピリッと小袋を破り、中に入っていたチョコレートを出す。
 暑さでだいぶどろどろだ。
 あいつ、夏にチョコって…
 意を決してつまみ上げパクっと食べて、今後こそマンガをカバンの中に入れた。

 甘ったるい味が口の中に広がる。
 甘党の俺からすればそれは嫌なことではないのだが―――

「やっぱ、近付かねぇなんて、無理だわ」

 緩みそうになる顔を伏せることで隠す。
 あぁ、俺って変人かも――

 先日のチョコレートのおかげか、気分の良い俺に驚きのニュースが舞い込んだ。
 それは、俺に戸惑いを呼んだ。

 バスケットボールが強く地面を打つ。
 ただいま部活中につき、詩舟のこととかを考えている余裕なんかなかった。
 それはありがたくもあった。

「5分休憩ぇ…各自水分補給しろよ。ぶっ倒れても知らねぇぞ」

「はいッ」

 壁にもたれかかって水を飲みながら、襲ってくる眠気と闘っていたら、巨大な水筒とタオルを持って真田がやってきた。

「………なんで来んだよ」

「いいじゃねぇか。なぁなぁ橋立ぇ」

「ん、なんだよ。キショい語尾を伸ばすな」

「ひっど!!せっかくすげぇこと教えようとしたのにー」

「うっせ、さっさと教えろ」

「ははっ。……さっき聞いちゃったんだけどよ。室井さぁ、遥子ちゃんと別れたらしいよ」

 びっくり、吃驚
 驚きと、詩舟の話題でちょっと動きずらい。

「はぁ?…なんで」

 やっと声を出す。

「さぁ…知らね」

「でも…デマじゃね?だって…噂だろ」

「いや、本人が言ってたぜ。廊下歩いてたらたまたま聞こえちまったんだけど………」

「まじかよ……ってかそれって噂って言わねぇ」

「えっ?何て言うの?」

「………さぁ?」

 その後、キャプテンの先輩から集合がかかってもう一度練習は再会されたが、自分が何をやったかなんて覚えていなかった。
 気が付いたら服を着替えてて、ケータイのバイブが鳴っていた。
 すぐに切れたから………メールか…
 カチャカチャとベルトをはめるとカバンを持ってケータイを開く。
 詩舟からだ。

こっちの部活終わったよ
まだ学校だよね?
一緒に帰んない?
玄関にいるから

 もういつでも帰れる状態だったから先輩たちに一言言って先に部室を出る。
 これだったらメールするより会いに行った方が早いな。
 熊坂さんとのことも―――


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