『伝えてはならない』

『気付かれてはいけない』

 今を壊したくないから

 俺のこんな気持ち―――

 伝えてはならない

 気付かれてもいけない。

 だから、触れてはいけない。

 近付けない。

 踏み出せない――…

――――――――――
 この前やった中間テストの結果が返されている。
 蝉が煩く喚いているなかで…
 いやもう夏に入っているのだから仕方がない。

 教室での俺、橋立桂の席は一番窓側の一番後ろ――…
 最高のポジションに俺はいる。
 が、すぐ隣り。
 窓の向こう側に大きな木があって、そこで大量の蝉が鳴いている。
 仕方がないと分かっていてもイライラする。

 ちなみに今は英語のテストが返されている。

「真田ー……」

 教師の間延びした声が聞こえる。

「いりませんー」

「いらねぇじゃねぇよ!!点数読み上げるぞ!!」

「うわぁぁ!!もらいます。テストいただきます」

 友人の真田が教師となんかやってる。
 俺は――…

「橋立ー」

「はーい……ども」

 92点………まあまあかな…
 間違ったところを青ペンで直して、机の中に入れた。
 今日の授業はテストの解説で終わった。

「詩舟、どうだったよ。テスト」
 放課時間に詩舟の前の席に座って未だにテストに釘付けの詩舟に尋ねる。

「驚くなよぉ……65点だ!」

 よほど嬉しいのだろう。
 テストをこっちに向けてヒラヒラと見せてくる。

「わあ、すごい。すごい」

「嘘だろー。絶対思ってないだろー分かるんだぞ!!」

「はいはい。すごいと思ってるよ」

 俺の方に指をさしながら怒る詩舟が可愛くてついついやってしまった。
 俺は、腕を伸ばして、詩舟の頭を、撫でた。
 詩舟に触れてしまった――
 詩舟がビクッと体を縮めたのを感じて、すぐに腕を引っ込めた。
 不自然じゃなかったか?
 引っ込めた手をどこにもやれず、次も頑張れよ、と言った。

 その瞬間、チャイムがなって俺は自分の席に戻った。
 やってしまったという後悔に、体ごと机に突っ伏す。

 右手にはまだ、詩舟の頭の感触が残ってる気がした。

 でもそれ以上に、びくついて固まる詩舟の姿が、消えない。

「はぁ…何やってんだろ。俺、嫌われてんのかな――やっぱ」

 そう考えたら何だか無性に泣けてきた。
 だってこっちは、一つの反応に一々考えを巡らすぐらいに、好きなんだから………

 あいつを想うんなら
 もう、二度と触らねえように――…


<< back >>


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -