[ 16/21 ]

 戻ってきた。久しぶりに、

 ホームはいつもと変わらず人であふれていた。
 時刻は午後5時
 学生もちらほらと見える。
 ハヤテは滅多に電車を使わないから、出会う心配はないだろう。

 重いスポーツバックを肩にかけなおしながら、改札口に向かう。

 さぁ、これからどうしよう……
 お金は一応カード持ってるから心配ないけど、
 やっぱり、ビジネスホテルかな………
 ここら辺にあったっけ……
 できればたくさん動きたくないんだよな。
 じゃあ、ネットカフェ?
 ………気が引けるなぁ
 あんまり好きじゃないんだよな。

 あぁ〜本当にどうしよう……
 もうこの際、オーナーにでも頼んじゃおうかな……

 これからどうするか迷っていると、どこかからか名前を呼ばれた気がした。
 キョロキョロと辺りを見回して知ってる人を探す。
 きっと、ハヤテではない。
 だって、ハヤテだったら体が固まってこんなにキョロキョロできない。

「……もしかして、来加さん?」

 ビクッ!!と体が跳ねる。
 背後からいきなり声をかけられて、全然違う声だってわかっていたのにびくついてしまった。
 ゆっくり振り返ると、そこには慎くんの姿が

「……慎くん?」

「はい、こんばんわ!!今帰ってきたところですか?」

 慎くんは僕の格好を見て判断したのだろう。
 勢いよくおじぎをしてから問いかけてきた。

「うん、そうなんだ……慎くんも今帰るとこ?」

 両手にビニール袋を下げている慎くん、きっと買い物でも…

「はい、ちょっと買い物に行ってて……」

 慎くんは照れたようにビニール袋を持ち上げた。

「そうだ、この前は色々迷惑かけちゃったね」

「そ、そんなことないです!!またいつでも来てくださいよ」

 慎くんはあわてて首を左右に振った。
 それと一緒に手に持っていたビニール袋も騒がしい音を出す。
 その姿に僕は少し笑ってしまった。

「あぁ、考えとくよ。ありがとう」

 それで僕は去ろうとした。
 重い荷物を持った慎君をいつまでも引き留めておくのは気が引けた。
 それに、慎くんにも用事はあると思うし。
 だから、別れを切り出そうと口を開いたとき、
 それよりも先に慎くんに言われてしまった。

「あの、今日はどこか泊まるところあるんですか?」

「ぇ……」

 時が止まった気がした。

「あの、あれから……僕と心人さんの二人で色々話したんです。人のことだからあんまり顔突っ込まない方がいいって思ったり、来加さんの傷を深くするだけってこともわかってるんです!!」

 慎くんは罪の意識からか俯いてしまった。

「そう……」

 びっくりした僕は大した返事もできず、そっけなくなってしまった。

「だっだから……」

 眉毛をハの時にして泣きそうな顔になる慎くんに、僕の方が慰めてあげたくなった。

 慎くんは僕のことが心配はなのにね……

「だから、来加さん……今日泊まるところないんですよね?」

「………………」

 僕がなんにも言わないのを悪くとってしまったのだろう。

「ごめんなさい!!僕……来加さんが心配で……」

「ありがとう…ね」

 僕の言葉に、慎くんはパッと顔をあげた。

「心配してくれて、ありがとう。僕は大丈夫だから」

「ダメです!!来加さん全然大丈夫そうな顔してない!!」

「えっ?」

「今回は意地でも連れて帰ります。心人さんもきっとそうする!!」

「慎くん……」

「………帰りましょ?来加さん……」

 慎くんが手を伸ばしてきた。
 その手を僕はゆっくりととる。
 慎くんを見ると満面の笑みを浮かべていた。

「ありがとう」

 一筋の涙がこぼれ落ちた。

「そうと決まれば、心人さんに連絡です!!」

「えっ?」

 慎くんは両手に持っていたビニール袋を地面に置いてケータイを出した。

 食材とかあるみたいだけど、大丈夫かな……
そんなことを思っていたら、電話が繋がったようだ。
 慎くんから明るい声が聴こえた。

「あっ、もしもし心人さん?」

『なんだよ。珍しいな電話してくるなんて…もしかして、寂し』

「今日から家に来加さん泊めますね」

『ハァ!?来加がいんのか?』

「はい、替わりましょうか?」

『おう、そうしてくれ』

「はい、来加さん」

 慎くんは僕に向かってケータイを差し出してきた。
 嫌な予感がするが、それを受け取り、耳に当てる。

「もしもし……」

『来加!!てめぇ、俺に連絡せずにどこ行こうとしてんだ!!』

 あまりに大きい声だったから思わずケータイから耳を離す。
 慎君にも聞こえたようで、僕と目が合うとクスクスと笑っていた。

「ビ、ビジネスホテル?」

『何で疑問形なんだよ?どこでも良いやなんて思ってたんじゃねぇだろうな……』

「うっ……」

 あまりの図星に言葉が返せない。

『ったく……いいか?来加…俺がいる限りてめぇをホテル住まいなんかにさせねぇよ』

「うん」

『前の電話じゃ強く言えなかったけどな、』

「うん」

『おまえは十分頑張ったんだ。だからちょっとは休め』

「うん」

『っていうことで、おまえはこの状況がどうにかなるまでは強制的に俺んちの居候だから』

「うん、ありがと」

 涙がまた流れそうになって、途中からうんしか言えなくなってしまった。
 慎くんが目の前にいたけど仕方がない。
 こればかりは止められない。

『てめぇの得意な料理作って慎と待ってろ』

「分かった。心人の好きなやつ、慎くんと作ってるから」

『あぁ、じゃあな。なるべくってか全力で帰る』

「うん。またね」

 そういうと、ブッツリと電源が切れてしまった。
 ツーツーツーツーと虚しい音が流れる。
 でも全然虚しくなんてなかった。

「……電話切れちゃった…慎くんごめん。なんか話したいことあったんじゃないの?」

 ケータイを慎くんに差し出す。
 慎くんは笑顔で受け取って、そのままズボンのポッケにしまった。

「いいですよ。別に、さっ料理作るんですよね。早く帰りましょ?その様子だと、心人さんも帰って来るの早くなりそうですし」

「うん。電話でも全力で帰るって言ってた」

 その言葉に慎くんは笑うと歩きだした。

「これを機に、僕もレパートリー増やそっと!!」

「もう十分じゃない?」

 隣で並んで歩く慎くんを見ると、やる気に満ちた目で決意を語っていた。

「いやいや。まだまだですよ。洋食、中華はまあまあいけますが、和食は苦手なんですよ…」

「そう?」

「はい、魚捌くのにもちょっと度胸がいりますし」

「あぁ〜なんか分かる……」

 なんか主婦みたいだ。
 そんなことを延々と話していたら、見覚えのある心人たちのマンションに着いた。
 慎くんに心人の好物の天ぷらの作り方やコツを教えながら作り、完成間際に心人が帰って来た。
 本気で全力で帰って来たらしい。

 ご飯を食べて、二人に挟まれながらテレビを見た。
 僕的には気まずかったけど、二人は楽しそうだったからよかった。
 寝るときはさすがに遠慮したけど……

 他人の優しさも、家族の優しさも同じように暖かい。
 明日からまた働きに出る。
 きっと気も紛らわせる。
 考えなくてもすむ。
 また頑張ろう。
 僕には暖かい人たちがたくさんいるのだから。




第二章 END

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