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 もうゴールデンウィークも終わって、暑さがひどくなってくる頃。
 やっと学校にも慣れてきたこの頃に、僕は生まれて初めて告白をされた。

『宇佐美くん、私と付き合ってください』

 昼放課に校舎裏に来るようにと呼び出されて、その事でさんざんからかわれたりしたけど、人づてに聞かされたことだったからどっちかと言うと男子の先輩から呼び出されたのではないかとドキドキした。
 もちろん、付き合うとかのドキドキではなく、いわゆるシメられるって意味で。
 だから、校舎裏に行ったときに女の子がいてびっくりした。
 そして、あっ、髪型かわいいな。なんて思ってたらあんなことを言われた。
 もしかして、告白?
 告白なんてされたの初めてだし、本当に告白されたことに驚いて思わずぽかん。
 黙っていたらさらに何か言ってきた。

『もし、私があなたと付き合ったら、この学校にいるすべての生徒があなたを羨ましく思うと思うよ』

『私、顔と体には自信あるんだけど、』

 確かに、スタイルはいい子だ。
 男子だったらほっとかないと思う。
 短いスカートからのびる足はスラッとしている。
 今時な感じのお化粧もばっちりだし、ふわふわと巻かれた髪は彼女が動く度に揺れている。
 黙っていたら彼女はさらに言い始めた。

『入学式の時にちょっと緊張してた私に声かけてきてくれたことあるよね?その時からなんか気になってて……』

 確かに、入学式のとき体育館の側でうずくまっている人がいて、どうしたのか尋ねたことがあった。
 そうしたら、生徒代表のスピーチに緊張していると言われ励ました覚えがある。
 あのときの先輩だったんだ。

『………お返事いただけますか?』

 彼女がウルっとした目でこっちを見てくる。
 彼女には悪いけど……

『……あの、ごめんなさい』

 深く頭を下げる。
 高飛車みたいになってるのはきっと緊張してるからだ。
 この子なりに頑張って気持ちを伝えようとしたんだから、それには精一杯答えなきゃね………

『気持ちは嬉しいですが、僕にはこたえられません。ごめんなさい』

 だって、僕には好きな人がいるから………
 もちろん、出会って2ヶ月だけど。
 目の前の子を見ると、次はその子がぽかんとなってる。
 信じられないと言いたげな顔をして口がパクパクしてる。
 そして、キッと僕を睨んだ。

『……後悔しても、知らないんだから!!』

 そう言って彼女は向こうに走っていってしまった。
 すごい、一昔前の少女漫画みたいな展開……
 僕は何も言えないままぽつんとそこに立っていた。

 高校一年生の春の話。



 そしていま、あれから1ヶ月もたってないけど僕の回りはぐるりと変わってしまった。
 それは3週間前――告白されて2、3日ぐらい――に始まった。
 その日も何も変わらず1日が始まって、おわるものだと思っていた。


 梅雨入り宣言がなされ、今日も今日とて雨が降っていた。

「ウサ!!」

「おはよう。台……朝練だったの?」

 昇降口に入ったところで宇佐美は高校でできた親友の坂井に声をかけられた。
 梅雨独特のじめじめした空気のせいでもつれた肩より少し長い髪を手櫛で整えながらそれに応える。

「違う!!早く、早く来て!!」

 なんだか焦っているようで困っているような顔で台は宇佐美を引っ張った。

「ちょ、ちょっと待って……スリッパ履いてない」

 なんとかスリッパを履かせてもらう時間をもらって、宇佐美より10cmほど低い台にぐいぐい引っ張られる。
 そして、連れてこられたのは体育館。
 台が朝練をしていた場所だった。

「ウサ!!」

 台が指を指したものは、大きな張り紙だった。
 宇佐美のことが書いてある。

「誰だよ!!こんなこと書いたやつ!!ウサのことなんにも知らずに、ホモだなんて……」

 そこには宇佐美がホモであるだとか、男と一緒にホテルに入っていったとか、髪が長いのは女装が趣味だからだとかが、さも真実であるかのように書かれている。
 隠し撮りだと思われる彼の写真と共に……

「仕方ないよ。外見からしたらそうなんだもん。間違ってはないよ……」

 宇佐美の声が震えた。
 彼の目は、見ていたくないのに張り紙の字を追ってしまう。
 ただ、ひたすら涙が出てきそうになるのを必死でこらえることしかできなかった。

「ウサ………」

 宇佐美には先天性の障害があった。
 台はその障害のことを知っている。
 その上で、親友として付き合っているし、自分の名前を良く思えない宇佐美のためにウサと呼んでいるのだ。



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