真剣な話がある。
そう言ってブン太が私の顔色をうかがうから、私は当たり前に頷いた。


「実は、俺……!」

「ま、待って!」


最初は冗談かと思って軽い返事をしたけど、ブン太の悲しく恐ろしげな言い表せない表情にただ事じゃないと感じ取って私は急に怖じ気づく。


「それって今じゃなきゃだめ?」


いつの間にかしんとした教室。
何事かとクラス全員がこっちを見ていた。


「……悪い。また後で。」

「は?ちょっとブン太!」


ブン太は勢いよく教室を出ていった。
すぐに廊下からブン太と他数名が騒ぐ音がする。
やめようとか別のとか、何言ってるのかはちょっとよくわからない。


「なに今の…。」


私は怪訝な顔をして立ち尽くした。
思い当たることは何もない。
私はクラスで唯一我関せずとケータイを扱っていた隣の席の仁王に声をかけた。


「ねぇ仁王。ブン太何かあったのかな。」

「さあて…真剣な話がお前さんにあるみたいやったのう。」

「気になるなぁ…。なんだろ。仁王は知らないの?」

「A、結末がわかっとる話こそつまらんもんはないぜよ。そう思わんのか。」

「思わない。ていうか、やっぱり何か知ってるんじゃない。」

「じゃ、お前さんのために結末を変えてみるか。」

「は!?」

「部活でやっていた罰ゲームじゃ。ブン太が負けて俺が勝ったぜよ。」

「それで?」

「一番仲が良い女子に今までにあった自分の一番の失敗談をカミングアウトしてきんしゃいって。」

「なんだ…そんなこと。」

「でもたった今罰ゲームの内容が変わって結末が変わってしもうた。お前さんのせいじゃけぇ後で恨まんでな。」

「ちょ、」


メールの送信画面を見せてニヤリと笑う仁王に私はため息をついた。
もういい。仁王に口先で勝とうと思った私がバカだった。
私は肩を落として自分の席に座った。
私には大して関係ない単なる罰ゲームっていうのはわかったんだから。
それだけは安心できる。



放課後、日直の仕事で教室に残っているとブン太がやってきた。
ブン太は周りをきょろきょろと確認している。


「ブン太?なにやってんの?」

「いいからちょっとこっち来い。」

「は?」


ブン太は私の手を引くと人気のない階段の踊場まで連れ出した。
私は片手に黒板消しを持ったまま訳もわからずついていく。
まあテニス部の人たちは罰ゲームとかにかなり粘着質…って言ったら怒られるかな。
とにかく絶対的な命令でやり遂げるまで許さないっていうノリがあるみたいだし、付き合ってやるか。
私はブン太の話を大人しく聞いて、全部忘れてあげる覚悟をした。


「A、実は俺さ。」

「うん。」

「昔、甘い物嫌いだったんだよ。」

「へ〜〜〜。…って、ええ!?ま、まじで!?」


いかんいかん。さらっと流すはずが普通に驚いちゃった。


「っていうのは嘘だけど。」

「嘘なのかよ!!」

「お前のツッコミってジャッカル並みに完璧だよな。いいと思うぜぃ。」

「いやそんなところ褒められたって…。」

「日直サボらねーし。真田と同じくらい真面目だよな。」

「それ褒めてんの?」

「褒めてんだろぃ。」

「そ、そう…。」

「案外優しいし、別に普通に可愛いし、すっげー面白いし。見てて飽きねぇ。」

「いきなりなに褒めてんのよ。気持ち悪!」


なんか企んでない!?と身構える私にブン太は私を馬鹿にするようなため息をついた。


「お前なぁ…鈍感。」

「ど…っ」

「バカだし。やっぱバカだぜ。バーカ。」

「バ…ッ!」


逃げ出すブン太を拳を振り上げながら追いかける。
罰ゲームがどうした。
仁王が言ってた結末ってこれか。
私は行き場のない恨みと怒りを目の前のブン太と仁王にめらめらと燃やしながら全速力で走った。


「ブン太アァァ!!!貴様地獄の淵に案内してやるわ!!」

「やっべ!真田二号生み出しちまった!」

「キエェェェ!!」




その日、部室に逃げ込んだブン太を追ってテニス部に乗り込んだ私は止めに入った真田にアッパーカットを食らわせて真田を地獄送りにした後、止めに入った幸村に地獄の淵に案内されてしまった。
黒板消しがいつの間にか私の右手から消えてたんだけどそれは都合よく忘れることにする。


「何しちょる。」

「自主反省。…ってことになってる。」


私はテニスコートの端で正座させられていた。
「反省は自分の力でできるね?」と幸村からにっこり笑われたんじゃたまったもんじゃない。
テニス部(幸村)の領域に勝手に入って暴れたことに幸村はひどくご立腹だったらしい。
私が正座した後、幸村の目が「動くなよ」と言っていた。
もう嫌だ。
寒いし足痛いし帰りたい。
仁王はニヤニヤしながら私を見ていた。


「恨んでやる。」

「おー恐いのう。」

「もうあっち行って。」

「そう拗ねなさんな。どんな命令したか聞かんのか?」

「どうせ私をけなしてこいとか、そんなでしょ。」

「ちと違うのう。5つ褒めて5つけなしてこいって言ったんじゃ。」

「大して変わんないじゃん。」


仁王はククッと笑いを零した。


「結末は気に入らんかったみたいじゃな。」

「当たり前でしょ。」


私がムッとすると仁王は「そうかのう」と続けた。


「仲が良い女子に…じゃくて、好きな奴にって言ったんじゃけど。」

「………は。」


一瞬頭が真っ白になった。
仁王は相変わらずニヤニヤしながら私に背中を向けた。


「ちょ、仁王待っ…!」

「お前さん動いたらいかんのじゃろ。」

「ウゥッ!」


幸村の視線を感じて立ち上がろうとした体が凍りつく。
大人しく座り直すと呆れた顔でブン太がやって来た。


「何やってんだよお前。」

「べ、別に…。」


なんとなく目が合わせられなくて不自然に顔をそらすとブン太は私の顔にジャージの上着を投げつけた。


「ぶはっ!!」

「それ着てろぃ。」


5つ褒めて5つけなしてこいって仁王は言ったって言ったのに、ブン太は6つ褒めて4つしかけなさなかった。
まぁバカって三回も言われたけど。
だるそうにコートに戻るブン太の後ろ姿を見ながら、私は一生ここにいてもいいかなと思ってしまった。

部活が終わったらブン太のところに行って、両方合わせて9つの分だけ褒めてバカにしてやろう。
それで最後の一個で、感動的な愛の告白といこうじゃないか。







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