最近、急に寒くなってきた。
そういえば今朝も長太郎が、もう冬ですね、とかなんとか言ってた気がする。
冷たそうな雨が景色をぼかしていくのを、教室の窓からぼーっと見ていた。
天気のせいか朝だというのに外は暗く、教室の電気が妙に明るく感じる。
朝礼が始まる前の騒がしい教室の中、前の席から死んだようなあいつの声が聞こえてきた。


「宍戸……寒い。」

「…お前なぁ。」


寒い寒いと繰り返しながらこいつは俺の鞄を漁ると、俺のマフラーを取り出してぐるぐるに巻き始めた。
顔の半分以上をマフラーにうずめて、お前は俺の机に突っ伏した。


「はぁ…落ち着く。やっぱ温かいとダメだね。眠くなってきた。」

「早過ぎだろ…。」


こいつは温かいだけですぐに眠くなるらしい。
なんで俺の机に…とため息をつきながらも、嬉しくてたまらない。

急にガタガタとクラスメイトが席に戻り始めた。担任が来たようだ。


「おい。起きろ。」


俺は肩を揺すったりマフラーを引っ張ってみたりしたが、全く起きる様子がなかった。


「起立。礼!」


跡部の号令がかかって、俺は慌てて立ち上がった。


「おはようございます。」


けだるそうに頭を下げると、いつの間にか目を覚ましたこいつがびっくりしてこっちを見ていた。


「………おはようございます。」

「バカ!寝ぼけてんじゃねぇよ…。」

「え、」


お前は周りを見回した。


「………うっわ!!なんで起こしてくれなかったの宍戸のバカ!」


お前はそう吐き捨てると、きちんと席についた。
俺は笑いを含んだため息をついた。


こいつは寒いのが苦手らしい。
実際、冬になるとマフラーに隠れるようにして登校してくる。
そのせいか前があまり見えていないようで、よくふらふらと電柱に向かっていった。
それを止めるのが、いつの間にか俺の役目になっていて。


「そこー、マフラー外せ。朝礼中だぞ。」

「………風邪なんで。」


担任は諦めたようでそれ以上何も言わなかった。今日の連絡を話している担任の話もろくに聞かずに、お前は欠伸をしていた。

なにげなく、俺は目の前で揺れるマフラーの端を引っ張った。


「ちょ、なに?」

「………。」

「宍戸?」


こいつはなんでこんなに可愛いんだ。
引っ込みがつかなくなった手に力が入る。

一時間目の授業の予鈴が鳴った。
予鈴に紛れて、こいつの耳元で喋る俺の声は周りには聞こえない。


「好き」


ポカンとするお前から目をそらして、俺は冷静になるのに必死だった。


「………………。」


マフラー返せよ、と言うと、お前は頑なに首を振った。

そのかわり、自分のマフラーを鞄から取り出して俺に押し付けた。


つまり、これが答え。








>純情浪漫シリーズより

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