長い説明が終わったのか先生が手を叩いて話に区切りをつける。


「じゃ、誰を描くか決めて描いてみろ。なにかあったら呼んでくれ。」


そう言って先生はさっさと準備室に引っ込んだ。
芸術家はやる気がないというか自由というか。
黒板に書かれた課題に目をやる。


「友達の顔……。と、友達の顔!?」


(((なんで一番嫌な課題を出すんだ!)))
誰もが心の中で思ったに違いない。

ビッグ3が振り返ると後ろの六人は一斉に顔をそらした。


「お、俺、先輩の顔描くッス!」

「あ、うううううん!!いいよ!!じゃあ私ブン太の顔描こうかな!?」

「お、おう!じゃ、俺は赤也な!!」

「ジャッカル、柳生、俺とお前さんたちも互いに描き合わんか。」

「それは良い考えですね仁王くん!」

「ああ!そうだな!じゃ、左から柳生が俺を、俺は仁王を、仁王は柳生をでいいんじゃないか?」

「ふぅん…。それじゃあ…………………。」


幸村がそう言って一瞬緊迫した沈黙が訪れたところで、幸村がゆっくりと笑顔を真田に向けた。


「俺は…そうだな。真田にしようか。」

「ふむ。特徴が多くて描きやすそうだ。俺も弦一郎を描かせてもらうぞ。」

「あ、あぁ…かまわん。俺は幸村にしよう。」

「フフ…上手く描いてくれよ。」


真田の墓前に心の中で祝杯を掲げ、私たち六人はなるべくそっちの方を見ないようにしながら机を互いに向き合わせた。
私と赤也とブン太は三角形になった。そのすぐ隣で柳生とジャッカルと仁王も三角形に机を並べていた。
セーフセーフ!と私たちは深呼吸をして、しばらく和やかに絵筆を進めていった。
私は絵には本当に自信がないんだけどまあブン太だしいいや!隣にお菓子でも描いてやれば何も言わないだろうと安易に考えて芸術的センスを爆発させる。
三十分くらい経った時、ブン太が鉛筆を投げて背伸びついでに後ろに座っていたジャッカルにもたれかかった。
いきなり来た衝撃にジャッカルが「あっ!!」と叫んだけれどブン太は特に気にする様子もなく顔をしかめた。


「あ―――…腹減った〜…。」

「ブン太、真面目にやんないと後が怖いよ。」

「わーってるって…。」


そう言いながらも机に頭をぶつけた後、勢いをつけてもう一度ジャッカルにぶつかった。
今のはわざとだ。
可哀想なくらいびっくりしたジャッカルは足元にあった水入れを足先で蹴っ飛ばした。


「ジャッカルくん!!」

「す、すまねぇ…!お、おいブン太!」


水入れに入っていた汚れた水の飛沫が上靴と靴下にかかったらしく柳生が怒った。
平謝りするジャッカルが不憫に思えたけど、ブン太はまったく気にせずやる気がなさそうに鉛筆を鼻と口ではさんでいた。
それにも飽きたのか、今度は「ちょっと見せろぃ。」と私の画用紙を強引に覗き込んできた。


「ちょっと見ないでよ!!」

「うっわお前才能ねぇー!!てかもしかしなくてもこれって俺かよ?」


ふざけんなとかもっとカッコいいだろぃとかガミガミ怒りだすブン太から今度は赤也が私の画用紙を取る。


「ぎゃはははは!!先輩絵めちゃめちゃ下手っスね!!でも丸井先輩そっくりっすよ。丸顔のあたりとか特に。」

「てめ、赤也!!こんな風船に顔描いたような絵と俺が同じなのかよ!」

「ふ、風船!?むっかつく!そこまで言うなら二人の絵も見せてよ!」

「「あ!」」


私はブン太と赤也が掴み合って騒いでいるうちに二人の画用紙を取って見た。
どう見たって私と同レベルいやもしかすると私よりひどい絵がそこにあった。


「赤也!!なんで私の頭から角が生えてんのよ!」

「だって先輩怒ると鬼みたいだし。」

「ははは言えてる!でもこれじゃ小学生の落書き並みだぜ?」

「そういうブン太は海の絵じゃないの。」

「だってわかめだろぃ。隣に赤也って名前入れればいいんじゃねぇの?」


赤也とブン太がぎゃーぎゃーと喧嘩を始めたので私はため息をついた。
描く気も失せて、隣をちらりとのぞくことにした。
仁王はやたらと必死になっているから後ろからこっそり見るといわゆる騙し絵と呼ばれる絵を描いていた。
遠くから見ると一応人の顔のように見えるがなにをやっているのやら。
無駄に上手いところあたりが憎い。
柳生の絵をみるとなんだかやたらとまつ毛が長い凛々しすぎるジャッカルがいた。
どことなく少女漫画チックだ。
ジャッカルは不器用ながらも仁王を描いていたが、今騙し絵に必死になっている仁王を描いているのか目を仁王の特徴と捉えているのか必要以上に主張された仁王の目がやばいくらい怖い。
題名は紙上の詐欺師でいいんじゃないかな。




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