学内活性化のために選択授業というやつができた。

お試し行事だから、放課後1日だけある交遊会みたいなものだ。
同じクラスメイトでも取る科目によって違う教室で違うクラスメイトと違う授業を受けることになる。
中には違う学年が混ざることもあって、楽しみで新鮮な反面怖くもある。

居眠りをするとうるさそうだから、最悪三強とは違う授業を取ろうとさり気なくみんなにどのクラスになるのかを事前にチェックする。
さすが私は敏腕マネージャー。

真田「書道だ。」
柳「茶道を取ろうかと思っている。」
仁王「数学かのう。パズルゲームみたいなんするらしいぜよ。」
柳生「哲学ですね。詩にも通じるような深さがあるので興味があります。」
ブン太「調理実習以外取るわけねぇだろぃ。」
ジャッカル「美術だな。みんなで結構大掛かりな木工作るみたいでよ、楽しみだぜ。」
赤也「体育っす!」


良かった。
うちの部員に協調性がなくて!
これで安心して好きなものを選択できると思っていたところで、幸村がまるで悲劇を演じるかのように高らかに言った。


「みんなどうしてそんなに勝手なんだい?」





「「「………………。」」」


果てしなく重たい教室の雰囲気。


『全国大会前なのに、そんなにばらばらで他校に勝てると本気で思ってるのか?』

『―――……思ってるのか?』

『―――……思ってるのか?』

『―――……思ってるのか?』


幸村の言葉が頭の中でエコーアゲインされる。
言葉をなくして青ざめる部員たちは大人しくみんなで同じ授業を取るしかなかった。
赤也がいるから幸村は英語を取りたがっていたけれど、英語は二年と三年は一緒に受けられなかったから取り消しになった。
英語と聞かされた時の赤也の顔と言ったら……本人は否定してたけどあれは100%泣いてた。

選択科目にガーデニングがないことを不服そうにしていた幸村だけど、結局みんなで取った科目は芸術の水彩画の方だった。
幸村が取りたかっただけなんじゃ…というのは誰も口になどしない。
芸術と幸村が言った時のジャッカルの笑顔はとても輝いていたなと今更ながらしみじみと思う。
木工じゃなくて残念だったねジャッカル…。

水彩画が幸村の趣味だとみんなが知ったのはこの時だった。
確かにリハビリ中の時は病室にスケッチブックがあったような気がする。

美術室には私たちテニス部メンバーしかいない。
思いの外水彩画は人気がなかったらしいなとまるで他人事のように思った。
一番前に柳、幸村、真田が並ぶ。
次に柳生、ジャッカル、仁王が並んで、最後尾に赤也と私とブン太が並んだ。
前では黒板で先生が色々と説明しているけど真面目に聞いているのは一番前の色んな意味でビッグ3の三人だけだ。
私は先生の話を右耳から入れて左耳に流した。


「私、美術苦手なんだけど…。」

「適当にやればいいだろぃ。」

「俺なんか一緒に体育取ろうって約束してた友達関係にひびが入ったんスよ…。」


重たい沈黙を破るように、前の席から柳生が気をきかせて明るい声を出す。


「美術には9人以上という規定人数があったそうです。私たちぎりぎりで良かったですね!」

「柳生…フォローになっとらん。」


ジャッカルなんかうつむいて今にも泣き出しそうだ。
ジャッカルが抜けたせいでもう一つの美術、木工の方は規定人数に足りなくて授業はなくなったらしい。
ふとジャッカルのズボンのポケットに金づちが所在なさげに入っているのをブン太が指さして教えてくれたところで、ジャッカルの中で事態が最悪を極めていることを知った。
ていうか、幸村がみんなで同じ科目を取ると言い出したのもこの規定人数制度が原因だったに違いない。
私は前に座っている幸村の背中を見てため息をついた。




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