「あ、忍足!お疲れさま。」
「ああ、お嬢さん。お疲れさま。」
「今お風呂の帰り?」
「そやで。お嬢さんもやんな?シャンプーのええ匂いがするわ。」
「近づかないでよ。セクハラで訴えるわよ。」
「……………。」
「あ、そういえばそっちのお風呂ってどんな感じだったの?」
それはレギュラー強化合宿初日の夜だった。
レギュラーが入ったお風呂の評判をを忍足に聞いて、次の日の昼間にちらりと覗いてみたんだけどそれはもう私が好きそうな内装だったわけで。
跡部にお願いして今夜は私もそのお風呂を使わせてもらうことにしたのだ。
「お前には専用のバスルームがあっただろうが。」
「だってあっちなんか落ち着かないんだもん。これくらいシンプルな方がいい!」
「ったく、世話の焼ける女だぜ。」
「ありがとう跡部!」
「ただし入浴の順番はレギュラーが先だからな。」
「大丈夫だよ。私、寝る前に入りたいタイプだし。」
レギュラーが入り終わった後に入る約束をして、私はお風呂の鍵を貸してもらった。
練習が終わってレギュラーがお風呂へ向う。
私は夕食を先にいただいて、残ったマネージャーの仕事を片付け、ちょっと夜遅く鼻歌を歌いながらお風呂へ向った。
下着とパジャマを脇に抱えてスキップで廊下を下る。
目的の扉を見つけて脱衣所に入るとシャワーの音がした。
こんな時間に誰か入っているとは考えにくい。
「もーシャワー出しっぱなしにして!」
私の結論はそこにたどり着いた。
大方ジローちゃんあたりがぼーっとして止め忘れたんだろう。
ジローちゃんはよく部活でも水道を出しっぱなしにすることがある。
私はずかずかと進むと思いっきり扉を開けた。
「ぎゃあああ!!」
「うおおお嬢さん!?」
おもいっきり人がいた。
というか忍足がいた。
古典的な驚き方をして私はバンザイのポーズで自分の荷物をぶちまけた。
そうだよ、忍足も遅くにお風呂に入るタイプの人だったんだっけ。
それで昨日お風呂帰りに鉢合わせしたんじゃないの。
「ごごごごめん!!!」
私は扉をしめて後ろを向くと逃げようとしたが、床に散らばった自分のパジャマを見事に踏みつけてすっ転んだ。
「お、お嬢さん!?」
忍足が驚いたように扉を開けた。
「いやあああ!!破廉恥眼鏡!!」
「わああ破廉恥でほんますんません!って、待ってや。俺腰にちゃんとタオル巻いてるやん。大丈夫やって。」
転んだ体勢から起き上がって固まっている私に苦笑しながら忍足は優しい声を出した。
「さっきもちゃんとタオル巻いてたんやで。もうあがるとこやったし。お嬢さん慌てすぎや。」
「う…。ほ、ほんとに巻いてる?」
「はは、ほんとほんと。せやから安心してこっち向いてええよ。」
「いや安心してこっち向いていいって言われても…。」
なんだ良かった〜!で振り向いても私がなにか変態みたいじゃない。
悩んでいる私の後ろで忍足が動く気配がした。
「お嬢さん、下着落としてるで。」
「きゃあ!!見ないでよバカ!!」
私は急いで振り返るとばっと自分の荷物を片付けた。
「ははは、ええやん。お互いさまなんやから。俺かてタオル一枚の下はすっぽんぽんやで。……あ。」
「ぎゃああああ!!」
結び方が甘かったのかハラリと儚げに落ちたタオル。
限界の限り叫んだ私に忍足が慌てた。
「お、お嬢さん…!声でかいわ。俺がなんや変なことしてるみたいやないか。誰か来たらどないすんねん!」
「振り向いた時にタオル外すなんて…さ、最っ低…!」
「な、誤解や!今のはわざとじゃない!信じて!」
「ぎゃー!!丸出しでこっち来ないで!」
「こら!女の子が丸出しとか言うたらあかん!」
「うるせぇド変態眼鏡!!」
今にも噛みつきそうな私の腕を掴んだまま忍足がニヤリと笑った。
「もう変態でええわ。この際やから一緒にお風呂入らへん?」
「だ、誰が…!」
「さっきのお嬢さんの叫び声でも誰も駆けつけて来んねんな…。」
(それがどういうことか、自分わかっとるん?)