前日のお風呂でマネージャーとばったり事件が頭から離れず、赤也は軽く落ち込んだままだった。
真田は昨日とは打って変わって全く喋らなかった。
そんな真田の背中を幸村だけが満足げに見ていた。
私はというといつも通りマネージャーの仕事をこなしていく。
多忙なマネージャーがお風呂でばったりしたくらいで仕事に手がつかなくなったりしたら困るのだ。
これぞ立海二連覇を支え続けたテニス部マネージャーの精神力。
どことなくしょんぼりとした足取りで歩いている赤也を見つけて私はボードのスコアを分析しながら呼び止めた。
常に二つ以上のことを同時にやる、これも鍛えられた幸村式マネージャーの特殊能力。


「赤也〜。」

「マ、マネージャー。なんスか…。」

「私昨日見て思ったんだけどさ〜、やっぱりなおした方がいいんじゃない?そのままだとちょっと駄目でしょ〜。」

「……え、え!?見たって俺…のを!?そ、そんなに駄目っすか!?」

「うん。」

「………!!」


赤也が今にも泣きそうな顔をしたので私はぎょっとした。


「ちょ、どうしたの!?」

「病院行って手術とかした方がいいんスか…?先輩がそうしろって言うなら俺……」

「何言ってんの。行くならスポーツ店でしょ。」

「え?」

「ラケットのグリップの話よ。もーちゃんと聞いてたの?」

「ラケット…のグリップ…。」

「そうよそれよ。」

「よ、良かった…!」

「は?」


赤也はなんでもないっス!と弁解して慌てて逃げて行った。


「うん。そろそろ休憩を取ろうか。」


幸村の声に一斉にみんながその場に座りこむ。
赤也はタオルを頭から被るとフェンスに寄りかかって座った。


「おい、赤也。向こうに行ったらマネージャーが食いもんくれるぜ。」


おにぎりを両手に抱えてモグモグさせているブン太を見上げて、赤也は自分のスポーツドリンクに目を落とした。


「別に…いらないっス…。」

「んだよ。元気ねぇな。」


おにぎりで手が塞がっているため足で軽く蹴るブン太を赤也は嫌そうにはねのけた。


「昨日の風呂のことまだ気にしてんのか?真田見てみろぃ。」


ブン太に言われて赤也は真田を探した。
マネージャーに飯の握り方が甘いとおにぎりに駄目出しをしている。


「………。」

「間近で見られた真田だって堂々としてんだぜ。しかもお前の見られたかどうかはっきりわかんねぇんだし。」

「だって…。」


そこそこ女にモテる赤也が何をそんなに嫌がっているのかとブン太は首を傾げた。


「別に見られたって減るもんじゃねーじゃん。」

「減ったんすよ…絶対。先輩の俺への気持ちが…。」


すげー笑ってたし…と赤也は泣きそうな声で呟いた。
こいつマネージャーが好きだったのか、とブン太はにやりと笑った。


「ふーん、そういうこと。まぁ、あいつが笑ってたのはそういう理由じゃないと思うぜぃ?」

「そんなのわかんないじゃないスか!」


本気で悩む赤也がおかしくてブン太は含み笑いをしながら赤也の肩を叩いた。


「そんな小せぇこと気にすんなよ。」

「丸井先輩まで俺のが小さいってバカにするんすか!?」

「は…はあ!?そういう意味じゃねーよ!」

「どうせ……!」

「あんたたち何騒いでんの?」


赤也の分のおにぎりを持ってきたマネージャーがきょとんとしながら口をはさんだ。


「どうせ俺は真田副部長みたいにでかくないっすよ!!」


赤也は叫びながら私の横をすり抜けて行った。


「ちょ、赤也ー!?」

「あいつ………比べる相手間違ってねぇか……?」


なんとなく後輩が不憫になったブン太であった。


「あ、マネージャー。赤也おにぎりいらないんだって。それ俺がもらってもいいだろぃ?」

「しょうがないわね〜。」





(ひどいっすよ丸井先輩!)





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