青学テニス部マネージャーの私は合宿に来ています。
本当はテニスなんてよくわからないしマネージャーになるつもりも予定も願望も微塵もなかったんだけど、先日会社関係の会合があったとかで泥酔状態で帰ってきたお父さんが私にとんでもないことを言い出したのがきっかけになった。
「不二さんのところの息子さん、ほら、お前と同じ歳の、不二さんの息子さんのところの息子さん。それでな、息子さん…ああいや、不二さんとなぁ…子供の結婚の話になってお父さんはお前は嫁にはやらんぞって言ったんだよ。だってまだ早いだろう。変な男がついたらどうする。なあ。お父さん寂しいもん。」
「いい歳して日本語めちゃくちゃなんですけど。お父さん飲みすぎ…。」
「それで不二さんとこの周助くんとお前を結婚させる約束をしたぞ。あーはっはっはっ!良かった良かった〜!」
「は、はああ!!?」
不二と私はただのクラスメイトだ。
たまに話すけど、いつも私をからかうばかりでいけすかない男だ。
ただ父親同士は職場が一緒ですごく仲が良い。
驚きはしたけどどうせ酔いが冷めたら忘れるだろうと思っていたら案外そうでもなかったらしい。
お母さんも「あら周助くんならお母さんも大歓迎だわ」と言い出す始末。
おまけに向こうもかなり乗り気なんだそうだ。
そりゃそうだろう。
向こうは一家揃ってかなりの酒豪なのだ。
どれだけ飲んでも顔色一つ変わらない。
だから不二のお父さんが酔うはずもなくて。
多分お父さんにお酒をすすめて「変な虫がつかないようにうちの息子と結婚したらどうかな。」とかなんとか言ったに違いない。
あの人は昔からそういう人だ。
「良かったじゃないか。周助くんならお父さんも文句はないぞ。」
「良くない!またどうせ不二のお父さんにうまく言いくるめられたんでしょ!」
「そんなことないだろう。」
ぶう、とむくれるお父さんに私も反抗した。
不二のお父さんは不二をそのまま大人にしたみたいな人だ。
不二はどちらかと言えば優しそうなお母さん似の顔をしているけど、中身は完璧父親似だ。
あのちゃっかりしたところとか狡猾なところとか。
「君ってほんとお父さん似だよね。クス…。」
あああ嫌な顔思い出した!!
どうせ不二の方も冗談じゃないと思ってるだろう。
……と考えていたけど、次の日からきっちりと不二がお迎えに来るようになって話しかけられるようになって彼氏面されるようになった。
「ま、待って。不二!」
「周助、でしょ。」
「なんで嫌がらないの!?」
「だって嫌じゃないもの。」
「な……!」
「不二不二〜!と、お邪魔しちゃった?まーた二人でいるし。もしかして…付き合ってる?」
「紹介するよ。僕の可愛い奥さん。」
「は…。え?ま、まじ…?」
「違う!菊丸も不二になんとか言ってやってよ。」
「英二。」
「にゃ…。不二…こ、今度の合宿なんだけど。」
「菊丸!」
「ごめん…無理。」
「ああ、そうだ。英二、合宿にマネージャーが必要だって竜崎先生がおっしゃってたよね。」
「え…なんでこっち見るの。」
そんな感じでむりやり私も合宿に行くことになった。
他にリョーマくんのファンらしい一年の可愛いマネージャーが二人いたから、三人で愚痴の言い合いをしながら洗濯をした。
洗濯物を干して、ボール拾いをして。
きつい仕事も三人いれば楽しい。
「お疲れさま。ところで今日の夜なんだけどどっちの部屋で寝る?僕の部屋?それなら英二には出て行ってもらわないとね。」
「一人で寝て!」
夕方になって、竜崎先生に洗ったばかりのタオルを大量に渡された。私は一人抱えてお風呂場へ向かう。
お風呂はみんなが入っていたので、近くにあるシャワー室に置いておくことにした。
脱衣所に入ってタオルを棚に置いた瞬間、ガラッと音をたててシャワー室のドアが開いた。
「ギャアアア!!」
「あれ?いたの?」
「いい加減機嫌なおしてよ。」
「もうお嫁にいけない……。」
私は合宿所のリビングでめそめそとしていた。
不二から渡されたジュースの缶を大人しく受け取る。
お風呂上がりの石鹸の匂いがして少しドキッとしてしまった。
私のせいで乾かす暇もなくまだ濡れている髪に、風邪を引いたらどうしようと罪悪感を感じた。
だけどまたいじわるそうにニッコリ笑う不二に顔が引きつる。
「ああ、それなら大丈夫だよ。僕がもらうからね。…クスッ。」
「クスッ、じゃなーい!」
「そのうち全部見せ合うんだから別にいいじゃない。」
「そのうちっていつのことよ!?」
「え?なんなら今すぐにでも…」
「絶っっ対いや!!」
「困ったなぁ…。」
「あ、あんなの…もう見たくない。」
「あのね…そんなに嫌がられたら僕だってさすがに傷つくんだよ…?」
「だ、だって…。」
「うーん…仕方ないね…。そんなに見るのが嫌なら目隠しする?クス…まあ僕はそういうのも嫌いじゃないけど。」
「何の話してんのよ!!」
(もう帰りたい…)